日本は国会見送り 職場全面禁止15年、受動喫煙対策強化進む米国NYの現状
受動喫煙防止運動の論点は子どもの健康
職場やレストラン、バーでの喫煙が全面禁止となったその次のステップとして、おのずとでてきたのが住居ビル内(自宅)における受動喫煙対策です。職場やレストラン、バーにおける喫煙禁止の恩恵を受けるのは主に大人たち。現在ニューヨーク州の専用サイトの受動喫煙セクションでは、子ども(とペット)の健康被害が特に強調されていると先述しましたが、自宅で大人が吸うたばこの煙、または通気孔を共有する住居ビル内でほかの住人が吸うたばこの煙により、今でもニューヨーク市だけで、20万人以上の子どもが受動喫煙にさらされています。 子どもはまだ肺などの呼吸器系が未発達なうえ、大人より呼吸回数が多く、より多くの煙を吸い込むことになるため、たばこの害を大きく受けることになります。ところが、個人宅はもちろんのこと、10室以上ある住居ビルの廊下や玄関広場など一部を除いて、ビル内での喫煙を規制する法律はニューヨーク州および市、あるいはその他にも存在しません。方法があるとすれば、所有者が住居ビル全体を全面禁煙にして、リースにその旨を含めることだけです。 ニューヨーク市ではこの問題に、主に二つの方法で取り組んでいます。ひとつは自宅での受動喫煙による子どもの健康被害にフォーカスしたキャンペーンの展開。近ごろでは、下の階でたばこを吸っている住人の煙が、通気孔を通じて上階のベビーベッドの周りや子ども部屋に充満している内容のテレビコマーシャルが流されています。 もうひとつは2009年に開始されたSmoke-Free Housingキャンペーンです。ビルの所有者や管理会社に働きかけて、これまで1万2000室超のアパートを全面禁煙にしてきました。ビルによっては最大で65%もの空気を各アパート共有しているということですから、廊下や玄関広場だけの部分的禁煙では不十分なのは明らかです。
最後に力を発揮するのは人びとの意識
今後このキャンペーンが継続的に拡大できるかどうかは、最終的にビル所有者や住民の受動喫煙をめぐる事実の理解度や意識の高さにかかっているといえます。規制されていない路上での歩きたばこもしかりです。職場での喫煙が全面禁止になってから来年で15年目を迎える今年、たとえば子連れで歩いていたりすると、手に持っているたばこをすっと他の方に向けてくれる人が多いなど、街全体が以前よりずっと「Non-smokers’ Rights」を尊重するようになってきたと感じます。 受動喫煙問題の究極の解決策は、法律による禁止のさらに先にある、よい意味での「愛煙家」文化を育むことにあるのかもしれません。いずれにせよ長距離の、息の長い取り組みが必要な問題なのは確かでしょう。 ---------- 金子毎子(かねこ・まいこ) 在ブルックリン。ニューヨークの日系新聞編集長を経て、現在は国際人権団体のコンサルタントおよびフリーランスのライター、編集者、翻訳家。