障害者への虐待、ちょっと多すぎない?福祉施設では高齢者の7倍超の計算に…根底に「自分とは違うから」という差別意識か
ただ、高齢者施設での虐待が単に表面化していないだけかもしれない。障害者施設のほうが関係者が積極的に通報していれば、当然それだけ認定件数も増える。 実は法律を詳しく見ると、障害者虐待は通報が完全に義務化されているが、高齢者では「努力義務」にとどめている条文もある。その点では、障害者のほうが通報義務が強いといえる。そのためかどうかは分からないが、厚労省のデータでは、虐待の程度が軽いうちに通報している割合は障害者のほうが高い。 一方、通報者の内訳を見てみると、施設の職員(元職を含む)や利用者家族が占める割合は高齢者のほうが高い。「本当の虐待件数に対し、どれだけ通報されているか」は調べようがないが、通報者の内訳から推測すると、高齢者のほうが周囲の人間がより通報しているのかもしれない。 ▽自治体の認定割合は高齢者のほうが高い もう一つの要因として、自治体の調査能力も関わってくる。実際は虐待があったのに、自治体が認定しなければ、見た目では件数が減るからだ。
これも「本当の虐待件数」は調べようがないが、通報件数に対する認定割合を比べると、高齢者のほうが高い。つまり、「実際の高齢者虐待はもっとあるのに、自治体が認定しないため見かけ上、障害者よりも少なくなっている」という可能性はあまりなさそうだ。むしろ障害者虐待のほうが、自治体の認定に至っていないケースが多い可能性がある。 ▽根底に知的障害への差別意識か 障害者施設での虐待が高齢者よりも多くなっている原因の一つとして、日本社会事業大学の曽根直樹教授は、被害者の約7割が知的障害者であることを指摘する。「厚労省のデータからは、重い知的障害の人ほど被害を受けやすいことが見て取れる。本人が言い返せない、被害を伝えられないということが背景にあるだろう」 曽根教授は職員側の意識にも言及する。「知的障害のある人に対し『どうせ分からない』とか『言っても理解できないから、体で覚えさせたほうがいい』という意識がまだあるのだと思う」