「動けない大国」アメリカの行方 第4回:新しい覇権国と「アメリカ後」の世界 /上智大学・前嶋和弘教授
アメリカの外交が構造的に動けなくなった背景に議会の「議院内閣制化」があり、「分割政府」が恒常化する中、外交に限らず、政治の様々な過程で膠着状態(グリッドロック)が目立っている。議院内閣制に近い状態に至るまでは多くの年月を経た。逆にいえば、“オバマ後”のアメリカが直面する国内政治の力学もすぐには変わらないだろう。もちろん、大統領が誰になるかにもよるであろう。ナインイレブンのような有事があれば別だ。だが基本的には、大統領がどんな外交政策を展開しようとしても、ブッシュ、オバマ両政権後半のように対立党からの恒常的な強い反発が予想される。 【写真】第3回:「議院内閣制化」するアメリカ政治 内政の対立が外交に大きな影響を与えるとすると、実際、現在日米で協議されている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉がまとまったとしても、議会が批准をする際の審議は大きく難航する可能性もある。北朝鮮の核問題にしろ、尖閣問題をめぐる日中関係にしろ、アメリカがさらに強力な姿勢で臨むことを日本としては期待したいものだが、大統領の強いリーダーシップは国内政治の構造上、難しくなっている。
(1)新しい「覇権国家」の誕生
アメリカの外交上の信頼感が揺らぐ中、アメリカはもう「世界の警察」ではないのかという例の議論に行きつく。実際、「アメリカ後の世界」の覇権や国際秩序についての議論がここ数年盛んになっている。 その代表的なものが、アメリカと中国の2国が覇権を担う「米中G2論」である。いうまでもなく、過去20年間で大きく台頭した中国は、国際政治でも大きなプレゼンスを占めるようになった。経済的にも軍事的にも急拡大を続ける中国に対しては、アメリカは強硬策(ヘッジ)でいくのか、あるいは融和策(エンゲージメント)でいくのか、そのスタンスはまだ固まっていない。 一方、中国の方は習近平国家主席の唱える「新型大国関係」のような米中の二大大国時代を渇望している。2014年7月上旬に北京で開かれた米中戦略・経済対話では、習主席は米国代表団を前に「広い太平洋には中米両大国を受け入れる十分な空間がある」とまで主張した。中国の覇権願望は言葉だけにとどまっていない。中国は、中国中心の新しい国際金融秩序を作るという目標のもとに「アジア・インフラ投資銀行(AIIB)」の設立を急いでいる。 一方で、第1回の冒頭で触れた昨年のシリア危機、今年のウクライナ危機などを通じてロシアも国際政治の中心に返り咲いた感が強い。このロシアと中国、ブラジル、インド、南アのBRICSの5か国は、発展途上国支援の「新開発銀行(BRICS開発銀行)」を作ることで今年7月末、合意した。世界銀行と国際通貨基金の向こうを張り、アメリカ主導の国際金融秩序に新興国5か国が挑戦する動きである。 新興国5か国とアメリカ、そして欧州、日本などが分立して国際協調を進める「多極化論」が言われて久しい。主要国の国際協調機能しない主導国のない「無極化(Gゼロ)論」を唱える識者もいる。ただ、混迷する国際秩序の中、いずれのシナリオもまだ先が見えない「仮説」ばかりである。