「動けない大国」アメリカの行方 第4回:新しい覇権国と「アメリカ後」の世界 /上智大学・前嶋和弘教授
(2)アメリカの「晩期覇権システム」
長期的には確かにアメリカの外交的な威信は揺らいでいるようにみえる。それでも、アメリカが第二次大戦以降に作り上げてきた国際秩序が崩されたと断言するのは、もちろん時期尚早である。 地域秩序が少しずつ変わっていったとしても、アメリカが作り上げ、長年維持してきた国連を中心とする第二次大戦後の各種国際制度はいまだに有効である。対テロ戦争という消耗戦はこれからも続いていくため、それに対応した安全保障戦略は常にアメリカの政策担当者の念頭にあり続けるだろう。アメリカの「シー・パワー」の比較優位は当面は健在だ。
アジア太平洋地域についていえば、アジア太平洋の安定化をもたらすのは、日米同盟や米比同盟というアメリカを軸とした同盟関係であるというアメリカ側の認識は当面は変わらない。一方、アメリカの同盟戦略は海洋進出を進める中国にとっては中国の「封じ込め」であり、アジア太平洋を不安定化させる元凶に他ならないという見方はさらに強くなり、米中の視点は食い違ったままであろう。 さらに、新興国による国際開発金融秩序の再編の動きはあっても、アメリカというキープレーヤーはなくならない。中国やロシアが生み出す文化的なソフトパワーもまだ、極めて貧弱である。そもそも、中国やロシアのような権威主義的な政治・社会よりも、民主主義を基盤とした国家体制の方が、控えめに見ても、圧倒的な求心力がある。 「金融資本主義」「カジノ資本主義」といったアメリカの金融システムの変化には批判も非常に多いが、それでも新しい経済発展のパラダイムはまだ見えない。アメリカの覇権は「晩期」を迎えているのかもしれない。ただ、「晩期」なりのアメリカの戦略の意図を見つめる必要がある。