「金ピカ霊柩車」が日本で絶滅の危機→意外な国で「走る寺」「宮殿のような車」と大歓迎のワケ
● 製造時の「切断」をやめて 洋型霊柩車の「目立たなさ」が進化 それどころか、洋型霊柩車は昨今、「目立たなさ」を追求してさらなる進化を遂げています。従来の洋型霊柩車は、製造時にベースとなるクルマを切断した上で、棺が入るよう延長したストレッチ型が主流でした。ですが、近年はストレッチされていないタイプが増えています。車体の切断を避けることで、クルマの劣化を防ぎ、安全性や耐久性を高めているのです。 何より、見た目がほかの乗用車とほとんど同じになるため、従来の洋型霊柩車よりもさらに目立ちにくくなっています。今後は、このタイプがさらに増えてくるでしょう。 なお、バス型の霊柩車も、見た目は一般的なバスとほとんど変わりません。こうした洋型霊柩車やバス型霊柩車は、仏式や神式の葬儀に限られる宮型霊柩車と違い、どんな宗教の葬儀でも対応できるのもメリットです。多様化が進む令和の時代では、国籍や宗教を問わず対応できる洋型霊柩車やバス型霊柩車が増えていくのは、仕方のないことかもしれません。 ちなみに、日本国内で霊柩車を製造しているメーカーは、「光岡自動車」「カワキタ」「オートウィル」などがあります。このうち光岡自動車は、市販車をカスタマイズしたオリジナルカーを製造・販売しており、あのロールス・ロイスをモチーフにしたセダン「ガリュー」がクルマ好きの間で知られています。そしてなんと、このガリューをベースにした洋型霊柩車まで開発しているのです。 「目立ちにくい」という業界のトレンドには逆行しているかもしれませんが、遊び心ある霊柩車が出てきているのは興味深いポイントです。 宮型霊柩車に話を戻します。日本では絶滅の危機にある宮型霊柩車は、実はアジアの仏教国から注目されています。
● 「宮殿のような車を譲ってほしい」 モンゴルで宮型霊柩車が大人気!? 少し前の報道になりますが、2017年3月15日付の産経新聞の記事によると、宮型霊柩車はモンゴルで「走る寺」として歓迎されているとのこと。日本の葬祭業者がモンゴルの僧から「あの宮殿のような車を譲ってほしい」と頼まれ、実際にモンゴルの国営葬儀社に寄贈したところ、ウランバートル市長から感謝状を受けるほど歓迎されたといいます。 このように、宮型霊柩車が他国で高評価されるのはもちろんありがたいことですが、「母国」の日本で敬遠されて絶滅の危機にある状況は少し寂しい気もします。かつては「霊柩車を見たら親指を隠す」という風習がありましたが、時代の流れとともに、これを知る人も少数派になってしまうのでしょうか。 クルマに関わる仕事をしている筆者としては、価値観や生活スタイルの変化があるとはいえ、宮型霊柩車は伝統文化として残っていってほしいなと考えています。
吉川賢一