「貯蓄より投資へ」はなぜ根付かないのか――。エコノミストが指摘する3つの理由
「米国株はコロナ禍で一時期落ち込みましたが、すぐに回復し、コロナ前の水準を超えました。米国では若い頃から株式投資を続けている人が多いですから、特に55歳以上の低所得労働者は株価上昇と失業保険給付でもう働かなくていいだけの資産を手に入れ、FIREした人も少なくないと聞きますよ」(永濱氏)
日本の部長の年収はタイよりも低いという事実
超低金利が続く日本で、銀行預金で資産を増やすことはできない。なのになぜ、日本人の多くが資産のほとんどを現預金で保有しているのだろうか。「日本に投資が根付かない理由は3つある」と永濱氏は説明する。1つ目は、義務教育期間での投資教育が遅れたこと。2つ目は、株価だ。米国では株価は右肩上がりのトレンドが続き、株価指数などの指標と同じ値動きをするように運用される「インデックスファンド」を買っておけば、ずっとほったらかしでも損をするリスクが少ない。一方で、日本の株式市場を代表する株価指数である日経平均株価を見ると、バブル景気の1989年末の史上最高値にまだ戻っていない。
3つ目は、日本人は「お金儲けは悪」といった価値観を持つ人が多い点だと指摘する。それは、「狩猟民族と農耕民族の時代から染み付いた考え方のようなものかもしれない」と永濱氏は見ている。日々の努力や頑張りによって成果を得られる農耕に対し、狩猟は獲物に出会う「運」も大きく関わっており努力と成果が関連しづらい。日々の努力と頑張りを美徳とし、長らく「1億総中流」が根付いている日本人には「株で儲ける」という姿勢は受け入れられにくいのかもしれない。 「顕著にあらわれるのが、宝くじに高額当選した人の話を聞いたときではないでしょうか。米国では、すごい!と素直に称賛の声が上がり、日本ではずるい!と感じ、高額当選するとその後不幸になるといったうわさまで出る。投資は値動きによるストレス耐性が必要になるし、精神的に厳しいことに直面することもあるので決して楽に儲けられるわけではないのですが、努力をせずにお金を儲けるのは良くないことといった感覚がどこかにある人が多いように感じます」(永濱氏) 人が努力と頑張りで得られる成果には限度がある。日本でも所得格差は問題となるが、格差に寛容な海外の国々と比べたら少ないほうだ。実際、日本の部長職の年収は米国はもとよりタイよりも低い(図参照)。努力して出世しても平社員との差がそれほど開かないのが、日本の実情だ。