ラーメン文化を築いた日本の職人たちの情熱──中国伝来の麺料理が世界のグルメに育つまで
かつてはB級グルメとして親しまれ、手軽で庶民的な食べ物と見なされていたラーメンの人気はもはや国内に留まらず、世界中で日本の食文化のアイコンとして地位を確立しつつある。 2015年には、東京都代々木上原の『Japanese Soba Noodles 蔦(つた)』がミシュランガイドで世界初となる1つ星を獲得した。当時の価格は1杯850円。1食1000円を下回る食事が星を獲得することは過去に例がない快挙で、世界中の美食家たちに衝撃を与えた。現在の掲載店はビブグルマン(従来の星の評価からは外れるものの、安くてお勧めできる店に与えられる印)を含めると60を超える。今やすしよりラーメン。多くの外国人が日本を訪れる目的にもなっている。 日本で独自の進化を遂げて多様化したラーメンが、国際的に広く受け入れられた要因は、その多様性にある。各地域の食材や調味料、そして地元の伝統料理との組み合わせによって、新しい味わいも生まれた。 例えば「ビリアラーメン」は、メキシコの伝統的な煮込み料理「ビリア」とラーメンを組み合わせたもので、2015年頃からメキシコシティで人気を博し、その後アメリカの西海岸でも注目を集めている。 近年ではラーメンの楽しみ方にも多様性が生まれた。1994年には世界初のラーメンアミューズメントパーク『新横浜ラーメン博物館』がオープン。それを皮切りに、行列のできる人気店や各地のご当地ラーメンが一堂に会する「ラーメン横丁」が全国に広がる。 さらに、選ばれた有名店が集結する「ラーメンフェスティバル」は、数ある食フェスの中でも特に人気が高い。普段は味わえない限定メニューのために長い列ができることもしばしばだ。海外でもニューヨークを筆頭に各地で日本のラーメンを楽しめるイベントが開催され、新たな「食」のエンターテインメントとして注目を集めている。 また、超人気チェーン店となった『一蘭(いちらん)』は座席の左右が板で仕切られ、おひとり様で食べられる「味集中カウンター」でおなじみだが、中国やアメリカなどの海外店舗でもその方式が採用されており、現地の反応は上々だ。 このようなラーメンを介した食体験も魅力の一つとして受け入れられている。特別なルールはなく、自由に楽しめるのがラーメンの良いところ。多様性を受け入れる懐の深さこそ、ラーメンが世界中の人々の心をつかみ、愛される所以(ゆえん)なのだ。
【Profile】
山川 大介 YAMAKAWA Daisuke 立命館大学卒業後、飲食メディアでラーメン店の取材に注力。その後広告代理店勤務を経て、2023年に日本初となるラーメンの麺を使ったクラフトビール『華麺舞踏会』を開発。現在は株式会社Beer the Firstの取締役に就任し、企業や全国の自治体との商品開発、SNSを使った集客支援、執筆活動など多岐にわたり活動中。