60代でマンション全面改修を決意。シニア1人が美しく快適に暮らす部屋のための建築家ならではの秘策とは
60代でマンションリフォームに踏み切った住み手のAさん。建築家の浅利幸男さんと共に、長年住み慣れた住まいを全面改修しました。 【写真集】リノベーションは人生の転機?建築家と挑んだ60代のマンションリフォーム 床はネイビーのカーペット、壁はグレージュに、テーブルやソファも塗り替え張り替えを施し、Aさんが好きな色味だけに包まれたシックな空間へと一新。間取りも大胆に変更しています。浅利さんはキッチンを中心に行き止まりのない回遊性のあるプランを提案。これによって、1人暮らしには広いと思われた面積も、すべての部屋が居場所となり通り道となり、全体が「生きた空間」へと生まれ変わりました。 60代からの1人暮らしを充実させるために行われたA邸のマンションリノベーション。インテリアと間取りだけでなく、この家の住み心地の良さや上質さの裏には、隠された工夫やアイデアがありました。改修後のA邸が美しく見える8つの理由を紹介しましょう。まずは、設計を手掛けた浅利さんに、美しい空間づくりの秘訣をインタビュー。どこを切り取っても上質な景色が生れているのは、細かなディテールへの配慮によるものでした。
ノイズのない空間とインテリアを追求する
「美しく、心地よい空間をつくるために鍵となるのは、違和感をゼロにすること」と浅利さん。1つの色や素材、デザインの存在が突出すると、どうしても違和感は生まれるもの。空間全体の調和を乱すこの“雑音”を排することが「空間の質」を左右するといいます。 A邸でも違和感をなくすための配慮は十分に行われました。まず、空調機器はすべて壁内にビルトイン。マンションの規約で変更できない既存のアルミサッシ窓は、木製の格子や方立(ほうだて)を設けて目隠しを。さらに、モールディングの白はバリエーションを6色用意し、場所によって塗り分けるという徹底ぶり。 「白は採光や照明の当たり方で微妙に表情が変わります。施工中も、窓際のモールディングに光が差すと予想外に光沢が目立ったため、マットな白に塗り直しました。全体を見たときのバランスが重要なんです」と浅利さん。 ていねいにディテールを積み重ね完成した空間は、雑音のない静謐な世界――その住人であるAさんは以前を振り返り、「完成後、私はこういう空間に住みたかったんだ、と初めてわかった気がします」と語ります。 「Aさんの世代は、仕事や子育てなどから解放され、インテリアも『必要に迫られて』『仕方なく』といったことから初めて解放されるとき。非日常だったことを日常にできる世代です。今までやりたいと思っていたことを、リノベーションでぜひ実現してほしいですね」