製造業におけるメタバースの強気センチメント、米国では大半の企業が投資・取り組みを拡大
コンシューマー向けメタバースの終焉?
2021年10月にフェイスブック社は、社名をメタに変更した。当時盛り上がっていた「メタバース」へのコミットメントを示すためだ。 メタバースとは、モバイルに次ぐインターネットの形態で、さまざまな体験を可能とする繋がった仮想空間といわれている。メタが目指したのは、フェイスブックのようにつながったソーシャル仮想空間で、ユーザーは3次元アバターを介して、コミュニケーションやエンタメを体験できるものだ。 しかし「メタバースの終焉」などといわれるように、コンシューマー領域におけるメタバースは、人々やメディアの関心が薄れ、目立った投資や取り組みも少なくなってきている。 2年前のメタバーストレンドに中心にいたメタのマーク・ザッカーバーグCEOですら、「メタバース」に関する発言を控えている状況だ。2023年9月末にメタが開催したイベントMeta Connectでは、メタバースデバイスとして開発されたきたヘッドセット「クエスト3」が発表された。 しかし、この発表イベントに登壇したザッカーバーグCEOの口から「メタバース」という言葉が発せられるまで33分も要したと報じられているのだ。 Techcrunchは、この状況を鑑みるに、ザッカーバーグCEOにメタバースについて言及することを厳しく注意した人物がいるのではないかと推測している。
コンシューマー以外の領域で広がりつつあるメタバース
「メタバースの終焉」は、コンシューマー領域に限っていえば、事実といえるのかもしれない。一方で、メタバース関連のテクノロジーは、それ以外の領域で、特定ニーズを見つけ利用が広がりつつある。1つは製造業だ。 デロイトと米国製造業者協会の一部門である製造業リーダーシップカウンシルが実施した2023年最新調査では、製造業のほとんどの企業で、産業用メタバースの基盤となる可能性のある技術に投資が行われていることが明らかになった。この調査は、米製造業の上級幹部350人に聞き取りを行ったもの。 それによると、製造業でメタバース関連技術に投資をしている割合は92%に上ることが判明したのだ。 投資対象となっているのは、クラウドコンピューティングやアナリティクスなどいわゆる成熟した技術のほか、デジタルツインやVR/ARデバイスなど先端テクノロジーが含まれている。 メタバースの直接的なテクノロジーとなる「デジタルツイン、3Dモデリング、3Dスキャン」に関しては、米製造業の29%が1つ以上のパイロットプロジェクトを実施中と回答。一方、これらのテクノロジーを実装・統合しているとの回答は、33%となった。合計すると、米製造業の3分の2の企業がデジタルツインなどメタバースに関する何らかの取り組みを行っていることになる。 製造業の中でもどのビジネス機能において、メタバース技術の活用が増えているのかも明らかになった。生産プロセスが34%で最大となり、このほかカスタマー対応が21%、サプライチェーンが21%、人材が17%だった。 生産プロセスでは、メタバース関連テクノロジーはどのように活用されているのか。最も多いユースケースは、生産プロセスのシミュレーションで、実にその割合は59%に上る。このほか、リアルタイムモニタリング/デジタルツインが57%、バーチャルプロトタイピングが46%、ファクトリーシミュレーションが46%などとなっている。 製造業におけるメタバース関連テクノロジーの活用は、AIの進化とともに加速する公算が大きい。これらの技術を統合することで、製造業の生産性や製造品質を大きく改善できる可能性があるからだ。 たとえば、ユニリーバはデジタルツイン技術を活用し、数十のバーチャル工場を作成、実際の工場にある機械に埋め込まれたIoTセンサーのデータをAIによって分析し、それをバーチャル工場にフィードする仕組みを構築した。これにより、バーチャル工場でのシミュレーションを実施し、実際の工場における予測的な保守作業、生産量の最適化、不良品の削減などを実現したという。