19年間破られなかった女子マラソン日本記録がついに更新!記録保持者のアテネ五輪金メダリスト・野口みずき「中継車に乗って解説しながら見届けたその瞬間」
── 前田選手は二度給水を取り損ねていたので、見ている側はハラハラしました。 野口さん:給水が取れなかった影響はまったくなかったようです。後で本人からも、喉の渇きを感じないほどだったと聞きました。個人で用意しているスペシャルドリンクが取れなかったとしても、大会側が用意している給水所が5km間隔で設置されているから大丈夫でしょう、と解説でも言ったのですが、彼女はそれも取りませんでしたね。 ── 野口さんは前田選手の走りを中継車から近くで見て、どう感じたのですか?
野口さん:前半はややキツそうだな、まだエンジンがかかっていないのかな、というふうに見えました。でも、本人に聞いたら「(前半は)きゅうくつだった」と言っていました。ペースメーカーがいるのに、縦にならずに横に広がるような隊列になっていたうえ、後ろにも選手がいたので、スペース的に狭かったようです。前田選手は一人でどんどん走れる方なので、目の前や真横、後ろに他の選手がいるとしんどいんでしょうね。 後半、21kmあたりからスパートをかけていましたが、あの時は体がけっこう動いていて「行けるんだったら行っちゃおう」という感じになったんだと思います。そこはもう、感覚的なものです。私もアテネ五輪で25km過ぎからロングスパートをかけた時は、監督からのアドバイスもありましたが、何となく体が動いた、という実感があるんです。それは給水のポイントだったせいもあるかもしれません。前田選手も20kmの給水の時に、他の選手が給水を取るためにちょっと離れたので、きゅうくつなのがイヤだったし、このまま行こう!と決めたんだと思います。
── 日本新記録が出た瞬間の率直な気持ちは? 野口さん:それはもう嬉しかったし、拍手!という感じでした。彼女の走りを見ていてワクワクしましたし、悔しいという感覚はまったくなかったです。しかも、誰も文句が言えない内容でしたしね。ペースメーカーを置いて飛び出し、自分でレースを支配しての新記録なので。 近年はシューズの進化もあり、世界的に見ればトップの記録は2時間11分台なんです。16分台、17分台、18分台もゴロゴロいますので、喜ばしいことではあるのですが、そこで満足してはいけない部分もあるのかな、と思います。ただ、今回の前田選手のように自分でレースを支配する姿勢というのは、世界で戦えるレベルに一歩も二歩も近づいたと思います。