高圧的に怒鳴る、命令する指導者は時代遅れ? ビジャレアルが取り組む、新時代の民主的チーム作りと選手育成法
上流から流れてくる「感情丸」をどう扱うか?
――そのサイコ・エデュケーションを、まさしく私たちも受けました。 L:いま振り返ってみると2014年は、自分もプロのサイコロジストとして初めて指導者のデベロップメントにかかわったスタート地点でした。とても強く印象に残っています。私は運よくレディースの指導者支援にかかわれた。そこでユリコの学び壊し、学び直しに寄り添えた。すべてが私にとって幸運だったと感じています。 ――私はどんなふうに見えていたのかな? L:強く記憶に残っていますよ。選手を勝たせたい、良くしたいという欲よりも、どちらかというと新たな学びを吸収する意欲を感じました。ユリコはレディーストップチームの監督であり、女子部の責任者でもあったので、女子部の指導者15人くらいを積極的に集めてくれました。学びの場であるミーティングに参加する姿勢は、素晴らしいものがありました。 ――「感情丸」の話をしてくれたよね。上流から「感情丸」という小舟が流れてきました。あなたなら、その「感情丸」をどう扱うか? 飛び乗って自分も一緒に流れる? 下流に流れるのを岸から眺める? って。もともと気が強くて短気な性格の持ち主だと見抜かれていたんだね。 L:ユリコは監督と女子部の責任者という二つの顔を持ち、他のコーチに対してもアプローチしなければいけない立場でした。感情のコントロールをしようと方法論から入るよりも、感情に執着すると本質を見失うよねっていう原論めいたことを押さえてもらう必要がありました。なぜなら、他のコーチに伝える役目も担ってほしかったから。 ――そこをきちんと押さえてから「自分の感情と距離をとるトレーニングをしましょう」と言ってくれたのを覚えてるよ。 L:確かにいろんなことをやりました。選手に対するコミュニケーション能力をさらに向上させて質の向上を図るトライをしたときは、私が影となってユリコの言葉一つひとつメモを取りましたね。ワン・オン・ワンでフィードバックして、リフレクションして。女子部のコーチ15人に対するコミュニケーションについても、その軌跡をすべて書き込んでドライブにアップしました。 ――うん、うん、やりました。ご面倒をおかけしました(笑)。 L:いえいえ。ユリコの担当はとっても楽でしたよ。なぜかというと、あなたは自分のすべてをオープンにさらけ出して、何でもお願いしますっていう状態だったから。要は抵抗がなかった。最初に、選手との関係性、それからその他のコーチングスタッフとの関係性をより良いものにしていきましょう、っていうところから始めた。それは私がテーマとして提案をして始めました。それ以外のところでも、常に私に対してどんなヘルプをしてほしいのかっていうのをすごく明確に伝えてくれました。仕事がすごくやりやすかった。 ――コーチの中には、自分の課題がわからないというか、何に困っているかを言語化できないケースもあったと思う。 L:ユリコはその言語化することに長けていました。スペイン人よりスペイン語が上手い(笑)。私たちサイコロジストの仕事は一人ひとりをスキャンしていくのが出発点。要は各自の課題やニーズを読み取るんだけど、そこが必要なかった。ユリコ自身が自分の中のコンフリクト(対立)や葛藤を自覚していたからです。