花王vs物言う株主オアシス トップ人事で早くも暗黙のプレッシャー
「花王にとってバイヤスドルフの件は、大きなケーススタディーだ」――。香港系の投資ファンド、オアシス・マネジメントのセス・フィッシャー最高投資責任者は4月8日、東京都内で開いた花王への投資に関する記者説明会でこう強調した。 【関連画像】オアシス最高投資責任者のセス・フィッシャー氏 バイヤスドルフ(Beiersdorf)はスキンケア商品「ニベア」で知られるドイツの消費財メーカーだが、かつて株価が低迷し、社長交代を余儀なくされた。わざわざ花王の類似企業として引き合いに出したのは、トップ人事を巡る経緯について警鐘を鳴らすためだろう。 オアシスは既に「花王株の3%以上を保有している」という。日本の会社法上、株主総会での議案を出せる状態だが、3月に終わったばかりの定時株主総会にはあえて人事交代案を提出しなかった。重要なカードは懐にしまったまま、先週には「化粧品とスキンケア事業への集中」を核とする構造改革を要求した。 花王によって提案が受け入れられない場合、社長交代を求める可能性について同氏は「まだ言えない」としつつも、「次のステップでは説明責任を要望する」とほのめかした。既に花王の長谷部佳宏社長らと5月に面会する約束を取り付けている。臨時株主総会の開催請求という手も見せており、アクティビズムが本格化するのはここからだろう。 ●提案の深謀遠慮 まず、現在の要求の真意を探る必要がある。オアシスが花王に突きつけた96ページにわたる英文のプレゼン資料。特に注目すべきは、「バイヤスドルフは事業成長に失敗した経営陣を入れ替える決断をした」という一文ではないか。 花王は同社と「ニベア花王(東京・中央)」という合弁会社を運営しており、身近な存在だ。花王の経営陣がこの文章を読むとき、思わず自身の将来と重ね合わせる効果を狙ったのだろう。プレゼンでは花王とバイヤスドルフの共通点として「競合他社に業績が劣後しており、M&A(合併・買収)は時々しかやらないのに吟味されていない」などと課題を列挙した。 次の説明文もやはり、人事案というカードについて心理的な影響が計算されている。 「花王とバイヤスドルフの似通った性質(attributes)がいくつも見受けられたのは、2021年初頭までだった」――。21年5月には、バイヤスドルフが最高経営責任者(CEO)を交代させ、ビンセント・バルナリー氏が就任したのだ。 新CEOの下でのバイヤスドルフの経営についてオアシスは「持続可能な利益成長を実現している」などと、旧経営陣と比べて絶賛している。つまり、アナロジー(類推)を用いて花王の現体制を批判した形だ。