花王vs物言う株主オアシス トップ人事で早くも暗黙のプレッシャー
オアシスはガバナンス(企業統治)に問題のある会社なら、すぐに経営陣や社外取締役の交代を求める。一方、花王のように社風が健全そうな会社だと、いきなり直球での社長交代は求めない。ただ、会社側が提案を遂行しないと判断したら、いずれトップ人事でプレッシャーをかけることもにおわせている。 ●東京ドームやツルハHDの先例 例えば4年前、オアシスは東京ドームの株を買い増していた。20年2月時点で「より良い東京ドームへ」という提案書を出し、同社の広告収入対策や、東京ドームホテルへの外部マネジャーの招へいなどを推奨した。 今回の花王への提案書は「より強い花王」とのタイトルで、チーフ・マーケティング・オフィサーの指名要請なども似通った状況だ。しかし、東京ドームについては提案から数カ月たっても対応が不十分だと判断。20年12月の臨時株主総会で、長岡勤社長ら取締役3人の解任を求めた。 製紙大手の北越コーポレーションには21年時点で「より強い北越」というプレゼン資料を示した。北越が約25%を持つ大王製紙株の売却や、製紙業を補う事業としてバイオマス発電への投資を要請。その後「北越は大王製紙株を抱えたままシナジー創出に失敗している」といった理由で、23年5月には岸本哲夫社長の再任に反対した。翌月の臨時株主総会でこの提案は否決されたが、再任への賛成率は65.13%にとどまった。 物言う株主によるトップ人事へのプレッシャーは、経営の変革を促すための常套(じょうとう)手段となっている。オアシスの動向に詳しい市場関係者は「くすぶっている業界再編に火をつけるような効果がある」と表現する。例えば上述の東京ドームだと、オアシスによる社長解任案は通らなかった一方、三井不動産がオアシスから東京ドーム株を取得。同社を子会社化することになった。 最近のケースだと、ドラッグストア大手のツルハホールディングス(HD)だ。23年8月の定時株主総会で、オアシスは取締役会長職の廃止や社外取締役5人の選任案を出した。いずれも否決となったが、ツルハHDは物言う大株主の存在を無視できない。結局、同業首位のウエルシアHDを傘下に抱えるイオンが、オアシスからツルハHD株を取得することに。ウエルシアHDとツルハHDは経営統合に向けた協議に入った。 こうして業界再編への導火線になれば、物言う株主は大きなリターンを得やすい。彼ら自身、資産を預かっている投資家からのプレッシャーもかかるため、ホームランを狙う動機がある。オアシスの場合、公的・私的年金基金、政府系機関、富裕層一族の資産管理を担うファミリーオフィスなどが背後にいる。 ツルハHD株の場合だと、オアシスは24年3月13日、発行済み株式の13.33%に相当する660万株を1023億円でイオンに譲渡した。1株当たりだと1万5500円。市場データ分析ツールのQUICK・ファクトセットによると、オアシスによるツルハHD株の取得単価は67.57ドルだった。今回の売却価格は現在の為替レートで約102ドルなので、単純計算で5割のリターンを達成している。