増加する“若者の孤独死”生きる意欲を失いセルフネグレクト状態も…「自分はもうどうでもいい存在だと思った」立ち直った当事者に聞く
■死を選ぶ寸前、どうやって立ち直ったのか
2人はどうやって立ち直れたのか。アミさんにとって大きかったのは会話だ。「家族や友人とかに電話して自分は孤独じゃない、(別れた)その人だけじゃないんだと思えて、生きようかな、頑張ろうかなと。無料の電話サポートも夜中に利用した。1人じゃないと気を紛らわすために『いのちの電話』があると思う。そういうものに軽い感じでかけてみてもいいと思う。気分が乗らなかったら(途中で)切ったりもしたが、匿名なので本当にかけたい時にかけて、ちょっとお話をするぐらいの感じで使ってみてほしい。今の自分の思いを吐露してもそれを『うん、うん』と、毎日同じ話でも聞いてくれる」と、自身の体験を紹介した。現在では、ゴミに溢れた部屋も業者に依頼して、きれいに片付けられたという。 久我さんは、専門医に診てもらうところからサポートシステムを1つずつ構築していった。「まず精神科を受診して、診断書をもらったら福祉サービスを使うために障害者手帳を取得した。そこからソーシャルワーカーが助けてくれたり、臨床心理士のオンラインカウンセリングにお世話になったり」。プロセスを経て、現在はパートナーもできた。「仕事が決まったことで、社会から必要とされる実感もあるし『今日の夜何食べようかな?』『今日何しよう?』という欲求が出てきたので、だいぶ変わったと思う」と現状も報告した。
■大空幸星氏「孤立と孤独は違う」
大空幸星氏が理事長を務める無料・匿名のチャット相談「あなたのいばしょ」には多い日であれば3000人、少ない日でも1000人を超える相談が来るという。まずセルフネグレクトについて大空氏は「負のループに陥っていく。友だちや家族を呼ぼうにも家に呼べないし、そもそも人に会う元気もない。人に会うという選択肢が頭の中に浮かんでこない。風呂に入らず、食欲がなくても平気な日が続けば、自分の力ではどうしようもない状況に陥る。困難な状況があると、人間の生存本能で抜け出す、SOSを出すものだと思われているが、そうではない。SOSを出すことすらしたくなくなる」と解説した。 また自ら命を断つという選択についても「非常に追い詰められた末に死、というように言われるが、冷静に判断ができる状況ではない。死にたいという気持ちと同時に、生きたくない気持ちもある。人間はやはりどこまでいっても生物なので、そんなに簡単には死ねず、自ら命を断つという行動のハードルは高い。どちらかというと生きたくない、生きられなかった結果で起こるのであって、死ぬ権利を行使したというわけではないと多くの人に知ってほしい」と呼びかけた。 「孤立」と「孤独」も似て非なるものだという。「若い人には今、SNSがある。18世紀、19世紀と比べればコミュニケーションは確実に上がっている。コミュニケーションによってつながりは強化されているはず」だが、死を選ぶケースは周囲と友好な交友関係を築いても起こる。「友好な人間関係があるからこそ、迷惑をかけてはいけない、不安にさせてはいけないと、逆に働いてしまう。孤立と孤独は違う。孤立は完全に家族やコミュニティとの接触を絶たれる状態だが、孤独は孤立していなくても起こる。私たちが最近、相談窓口を見ていて思うのは、家族も仲のいい友だちもたくさんいるのに、その人たちに相談できないこと。期待を裏切れない、心配をかけられないというのも、若者の孤独における一つの本質。これを無視して一人ぼっちの若者を探そうとするが、私はそうではないと思う」と示した。