リーグワン王者・BL東京に根付く、タレントを発掘し強化するサイクル。リーグ全勝・埼玉の人を育てる風土と仕組み
ブレイブルーパスに根付く、タレントを見つけ、強くするサイクル
タレントを見つけ、強くするサイクルは、ブレイブルーパスにもある。 親会社の経営不振が大きく報じられたことで、新人獲得が困難になったのは2016年度以降。クラブも低迷期に突入する。 しかし、2017年に現役を退き採用担当となった望月雄太(現広報)は諦めなかった。 「上位チームのやるようなリクルートではなく、多くのチームを回り、もう一度、原点に立ち返って足で稼ごうと。多くのチームを回り、多くの人としゃべり、いろんなところに情報を取りに行きました。あとは、『東芝が必ず復活するのでぜひ……』という(大学関係者への)ロビー活動のようなことも、1年目は徹底的にやりました」 求める人物像は、選手同士の距離感が近いチームカラーに合い、かつ「タフ」な戦士。所属する組織のことが好きで、厳しい鍛錬に耐えうる資質があれば、その人は自然と伸びるという算段だ。望月の現役時代、スキルの高さで有望視された若手が短期間いただけで移籍してしまうことがあり、その経験も反映させる。 リクルート対象の大学生を年季の入ったクラブハウスや寮へ招き、「このへん、汚いけどごめんね」。謝りながらも、「その選手は、そういうのが大丈夫だと思って呼んでいる」。マッチングの肝は人間観察にある。 今回のプレーオフで活躍したフランカーの佐々木剛は、学生時代にブレイブルーパスの練習に混ざった時の印象が忘れられない。2011年度入部の森太志の名を挙げて言う。 「(当時のトップリーグでの)成績はよくはなかったのですが、皆が自分のチームへ自信を持っていた。練習を終えて皆で昼飯を食べていたら、太志さんは『もう、決まりでしょ? いいチームだから』って」
「東芝は家族感が強い。初めて練習を見に行った時…」
ブレイブルーパスにとって、佐々木の入った2020年度はターニングポイントとなった。 佐々木は大東文化大学の主将で、それぞれ京都産業大学、筑波大学、東海大学で主将だった伊藤鐘平、杉山優平、眞野泰地といった幹部候補生、早稲田大学きっての核弾頭である桑山淳生が加わった。 クラブが分社化した翌2021年度には、2020年度に大学日本一となる天理大学の小鍛治悠太と松永拓朗、明治大学の副将だった森勇登、帝京大学のニコラス・マクカランも門を叩いてきた。 この選手たちのうち、準決勝の直前に故障した伊藤以外はすべて決勝のメンバー入り。決勝トライまでのラストフェーズでは、森、松永、2018年度からの在籍で日本代表のジョネ・ナイカブラとつなぎ、最後は森がフィニッシュした。 さらに2022年度に仲間入りの木村星南、原田衛は、レギュラーシーズンのベストフィフティーンとなった。望月の集めた戦力が、最適化されていたのが伝わる。 そのバックグラウンドには、首脳陣の再編があった。創部史上初の外国人ヘッドコーチとしてトッド・ブラックアダーが招かれたのは2019年。現体制は段階的に招く専門コーチの指導、何より指揮官自身の積極的な若手起用、雰囲気作りで原石を磨いた。 流経大柏高校から大学を経ずに2021年にブレイブルーパスと契約した現日本代表のワーナー・ディアンズは、こう証言する。 「東芝は、僕が入る前から家族感が強い。初めて練習を見に行った時のチームミーティングはすごく印象に残っている。コーチに選手がいろんなことを言っていたのですが、厳しくはなく、楽な雰囲気。選手同士でもいろいろと話し合っている。ミーティングの前は音楽を流し、ダンスが好きな人は前に出てきて躍ってもいます」 優勝したブレイブルーパスでは、今季から花園近鉄ライナーズ前ヘッドコーチの水間良武が入閣していた。控え選手の育成が主業務の一つで、来季以降の戦力維持にも期待がかかる。主将のリーチ マイケルは補足する。 「いまの若手は試合に出たい、日本代表やインターナショナルレベルでプレーしたいという欲が強い。5年前の若手と比べても、練習量が多い。向上心を感じます」 かたやワイルドナイツでは、スパイクを脱ぐ堀江がピッチの上で「もう一回、チームを作り直さなあかんな」とポツリ。その言葉を耳にした坂手淳史主将は「そうですね」と頷いたという。心で捲土重来を誓う。 <了>
文=向風見也