なぜ今ベーシックインカムなのか 第3回:財源はあるのか 同志社大学・山森亮教授
まず負の所得税から説明しよう。定率の所得税は、通常、図1の左側のグラフ(a)のような形で図示することができる。これを図1の右側(b)のグラフのように、課税最低限以下もマイナスの方向に線をのばしていったものが負の所得税である。負の所得税の「負」は「負ける」という意味ではなく、算数のプラス・マイナスのマイナスという意味である。税がプラスの数値であるときは個人から国へのお金の流れだから、マイナスはその逆で、国から個人へのお金の流れとなる。つまり税という名だが、一定以下の所得水準の人にとっては、給付なのである。
次に図2を見てほしい。図2(a)は課税最低限を0とした場合の定率所得税を描いている。図2(b)はそこに、ベーシックインカム給付後の課税前所得と税/給付の関係を書き込んだものだ。負の所得税の場合との類似性に気づくだろう。 負の所得税とベーシックインカムはその背景となる哲学には大きな違いがある。また負の所得税が個人を単位として支払われたり徴収されたりするのか、あるいは世帯が単位なのかは議論が分かれる。しかし哲学的相違を度外視し、国と個人のあいだの所得移転の形にのみ着目すれば、(個人単位の)負の所得税と(定率所得税による)ベーシックインカムとは、ほとんど変わらないことがみてとれる。 定率所得税によるベーシックインカム論として、日本では小沢修司教授(京都府立大)が、約50%の定率所得税で月額約8万円の給付が可能となるとの試算を行っている。
■「累進所得税・消費税・環境税」で賄う方法
他方累進課税による提案もあり、日本では村上慎司(医療科学研究所)さんが日本の累進税率を最も累進度の強い時期の水準に戻して消費税10%相当を加えた財源から、月額5万円のベーシックインカムの給付が可能になると試算している。 ドイツでは、消費税に税制を一本化したうえで、ベーシックインカムを導入するという議論がある。所得税や法人税は生産活動への課税であり、生産活動や価値を生み出す良い活動であるはずなのに、そうした活動を課税によって抑制するのは良くない、という哲学が背景にある。 この哲学をさらに突き詰めれば、生産活動にも地球に価値を加える活動と、逆に価値を引き出す活動とがあり、資源の利用など地球から価値を引き出す活動にこそ課税すべきだという哲学にたどり着く。イギリスで長年ベーシックインカムを提唱し、『ニュー・エコノミクス財団』の設立者の一人でもあるジェイムズ・ロバートソンは、環境税中心の税制とベーシックインカムという提案をしている。