なぜ今ベーシックインカムなのか 第3回:財源はあるのか 同志社大学・山森亮教授
これまで第1回、第2回とベーシックインカムについて紹介をしてきた。日本でベーシックインカムの話題となると真っ先に問われるのは、「その財源は?」という問いである。今日はこのことについて話をしよう。
■財源論に入る前に
ただその話に入る前に、二つ確認しておきたいことがある。ある特定の支出をどのような財源で賄うかを論じるのは、第一に、あまり意味がなく、第二にときに有害でさえあるということだ。 第一の点だが、たとえば国家公務員の給料は消費税で賄うべきか、それとも所得税で賄うべきか、という議論を思い描いてほしい。あるいは社会保障のあり方をめぐる議論で絶えず財源が話題となり、他の政策のあり方をめぐる議論ではそれほど話題とならないとすれば、それは世間での財源をめぐる議論には、なにか理性的な探求以上のなにかが込められていることになる。第二の点だが財政学では、歳入を確保するための複数の徴税方法の一つ一つ(例えば消費税)と、歳出の個別の項目(例えば軍事費あるいは年金支給の国庫負担分)とを固定的な形で結びつけるのは望ましいことではないと長らく考えられてきた。 とはいえ、ベーシックインカムを、仮に一人一月10万円の給付という形で行うとすれば、それだけで現在の年間国家予算を上回るのだから、国の歳入構造についての新しい形を描くことは不可欠である。そうした文脈で、ベーシックインカムをめぐってなされてきた「財源」論議を今回は紹介しよう。
■「定率所得税/負の所得税」で賄う方法
イングランドとウェールズの緑の党は数十年前の結党以来、ベーシックインカムの導入を掲げて来たが、定率所得税(稼得所得の多寡にかかわりなく一定の税率の所得税)の導入を同時に提唱している。この議論の特徴としては、第一に、アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」と類似の構造となり、経済学者との議論が容易となること、第二に、図示しやすく直感的にわかりやすいことがあげられる。