ロシア参戦で難民はさらに増える シリアは「地獄」化の恐れ
ISよりも政府軍による難民化が深刻
2011年3月に民衆蜂起が始まってから、殺された人は実に25万人にも達しています。その多くは政府軍や反政府軍の戦闘員ですが、もちろん民間人の犠牲者もいます。難民が生まれるのは、この民間人の犠牲者が多いからです。 そして、この民間人犠牲者は、圧倒的に政府軍によって殺害された人々です。シリア内戦では昨年から「IS」(イスラム国)の残虐行為が広く報道されたため、「難民はISから逃れてきた人たちだ」という誤解があるようですが、そうではありません。もちろんISの暴力から逃れた人々も大勢いますが、それよりずっと多くの人々は、政府軍による一般住居エリアへの無差別な攻撃から逃げた人々です。 例えば、もっとも詳細に現地情報を収集しているイギリスの民間機関「シリア人権監視団」によれば、今年8月の犠牲者総数は4830人。うち1205人が民間人で、うち674人が政府軍の空爆によるもの、239人が政府軍の砲撃や狙撃あるいは爆弾によるもの、55人が政府機関の拷問によるものです。つまり民間人の犠牲者1205人中、アサド政権に殺害された人が965人を占めています。これに対し、ISを含む諸勢力の砲撃での犠牲者は162人、ISに処刑されたのは32人に留まっています。
特に被害が大きいのが、やはり政府軍機による無差別空爆です。同団体の調べでは、昨年10月半ばから今年8月半ばまでの10ヶ月間で、政府軍による空爆は3万3376回行われていて、そのために民間人の犠牲者は5499人に達しています。空爆のうち軍用機による攻撃が1万5338回で、ヘリからの樽爆弾投下が1万8038回となっています。 その他、いくつかの組織が、これまでの内戦での犠牲者の内訳をカウントしていますが、どの統計をみても、アサド政権の攻撃による民間人の死者は、ISや他の反政府軍による死者を凌駕しています。
政府軍の無差別空爆を止める努力はなく
こうした状況でシリアに人たちは家を追われ、難民・避難民となっているわけですから、それを止めるには政府軍の無差別空爆を止めることが不可欠になります。ところが、そのための努力がまったく行われていません。 有志連合はISに対する空爆を継続していますが、それはISの勢いを止めてIS活動地域からの難民発生はある程度抑制できますが、政府軍の空爆は完全に傍観しています。すでに国連安保理決議で「樽爆弾」の住居エリアへの投下は禁じられていますが、政府軍がそれを破っても放置されています。 人々を空爆から守るには、いわゆる飛行禁止措置をとることが必要で、トルコやフランスはその案に言及していますが、肝心のオバマ大統領にその気配はありません(次期大統領候補のヒラリー・クリントンなどは言い始めているのですが)。