マイクロソフトがUAEのAI企業G42に15億ドル投資 米政府の意向を反映、米中AI覇権争いの渦中に
AI産業振興を目指すUAEの星、G42の会長は国家安全保障顧問
G42は2018年創業のAI企業。石油依存を減らし、AI分野の世界的リーダーへの躍進を目指すというUAEの構想を支える旗艦企業だ。UAEのアブダビ首長国の政府系ファンド、ムバダラによる支援の対象であり、タフヌーン・ビン・ザイド同社会長は、アブダビ王室の最有力者の一人。UAEの国家安全保障顧問を務める、「UAEで最も権力を持つ人物の一人」(ニューヨーク・タイムズ紙)だ。 公式サイトによれば、同社は政府機関や地元企業をサポートするためのAIリサーチやクラウドサービス、データセンターなどの事業を展開し、応用範囲は気候変動対策や医療、スマートシティ、公共サービス、エネルギー、スポーツなど広範。従業員数は2万人を超えるという。 6年前に創業して以来、マイクロソフトやOpenAI、デル、IBM、エヌビディアなどの米有力テック企業と相次いで提携したが、今回の15億ドルの投資を受け、AIインフラの開発はこの先、マイクロソフトとの連携が中心となる見通しだ。 両社の共同声明によれば、G42はマイクロソフトをクラウド・コンピューティングのパートナーとして迎え入れ、Azureクラウドプラットフォーム上でAIアプリとサービスを稼働させる。G42が開発を手掛けたアラビア語の大規模言語モデル(LLM)「ジャイス(Jais)」も、Azure上で実行する運びとなる。
米国がUAEに二者択一迫る、AI技術や遺伝子情報の流出を警戒
G42と中国との関係について、米国はここ1年ほど、警告を発していた。最初に懸念を示したのは2023年6月。G42のタフヌーン・ビン・ザイド会長(UAEの国家安全保障顧問)が訪米した際、バイデン政権は米国側の懸念を伝え、中国の企業・機関との関係を断ち切るよう要請。G42に対する制裁の可能性にすら言及したという。機密性の高い新興テクノロジーについて、米中のどちらを選ぶか、UAE側に選択を迫った格好だ。 さらにOpenAIとG42が提携を発表してからまもない2023年11月には、「米当局が安全保障上の脅威とみなす中国企業とG42の協力関係について、CIA(中央情報局)をはじめとする米諜報機関が警告した」と、『ニューヨーク・タイムズ』紙が報道。中国企業には米国が制裁対象としている通信設備の世界大手、ファーウェイが含まれるとした。 米国が恐れていたのは、G42と中国企業との関係を通じて、自国の先端技術が中国当局・企業に流出すること。米諜報機関の報告書は、数百万人を数える米国人の遺伝子データやその他情報を中国政府の手に渡すパイプ役となる可能性があるとも警告していたとされる。 また、2024年1月には、「米国と中国共産党の戦略的競争に関する特別委員会」の委員長を務めるマイク・ギャラガー米下院議員(共和党)が、米ブラックリストに載ったファーウェイなどの中国企業や、軍、諜報機関とG42が連携していると主張。商務省に対し、G42を貿易輸出ブラックリストに掲載すべきかどうかを「綿密に調査」するよう求めた。同委員会はこの際、G42のシャオ・ペンCEOに関しても、過去の職歴などを問題視していたという。