「演劇を観て、人を好きになってほしい」朝夏まなと×ノゾエ征爾 舞台『ロボット』で初タッグ
「この物語にある問いを共有しましょう」
――最初にノゾエさんがおっしゃったように今はAIなどが発達し、私たちの都合に合ったロボットを制作出来る時代になりました。この作品からどんなことが気づけるでしょうか。 ノゾエ そうですね。僕らが優位的な立場から皆さんに何かを提示するというよりも「この物語にある問いを共有しましょう」といった感じですね。僕らも作品を上演することで、何かひとつの明確な答えに行き着くわけじゃない。「でも、こういう現実ってあるよね」と見つめ直すといいますか。あらためて皆で「もう何も考えないわけにはいかないね、思考し続けることが大事だよね」と。「こんなことが現実になったら怖い」と感じるだけじゃなく、「じゃあどうしていくか、それを考える時代だよね」と、皆さんと一緒にこの問いに向き合えたらいいなと思うし、観劇後にそういった会話がたくさん生まれるといいなと。シアタートラムのある三軒茶屋には美味しいお店がいっぱいあるので(笑)、「今すぐ帰る気分じゃない。どこかに入って話そう」みたいなことになってくれたらすごく嬉しいですね。 朝夏 稽古場で自分の出ていないシーンを見ていて思うのは、ロボットを題材としているけれど、とても人間らしさを感じる作品でもあるんですよね。「無駄に感じることを、人間はしないではいられない」といった台詞が出てきますけど、今やるべきことに追われている現代人は、人間らしい感覚を忘れがちになっているかもしれないな、なんて考えます。例えば、花を愛でて美しいと思う、ゆったりした心とか。私が観客としてこの作品を見たら、そうした“人間だからこそ”の部分を大事にしたいと思うだろうな……と思いました。 ――孤島にある工場の物語で、舞台空間をどのように作るのか、気になります。 ノゾエ 舞台空間に関して……ひとつ、起きましたよね(笑)。 朝夏 はい。私には初めての出来事で、びっくりしました(笑)。 ノゾエ ほぼ確定していた舞台セットがあったんですけど、稽古初日に本読みをしてみて「あ、違った」と思ってしまって。それでガラッと大きく変更しました。物語が十二分に強いし、俳優の体も、言葉も強い。そこから話が十分立って来ると考えた時に、空間がそれを制約するようなことにはしたくないなと。それで演劇的な自由度の高い、抽象的な空間に変えました。 朝夏 模型を見せていただいて、すごい!と。ノゾエさんの説明を聞いた時に、皆さんからハア~ッと声が漏れるくらい、驚きがありましたよね。 ――劇場で、その驚きをぜひ体感したいです。 朝夏 シアタートラムは、作品の世界に没入する感覚を強く感じられる劇場だと思うんですね。今回はお客様も、孤島で一緒にいろんなことを体験している気持ちになれるのではないでしょうか。想像力が必要な舞台セットであるぶん、お客様に投げかける部分が多い作品になると思うので。その1ピースとなってノゾエさんが望んでいらっしゃる世界観をきちんと表現出来るように、これからますます挑戦していきたいと思います。 ノゾエ 得られることがたくさんある作品だと思いますね。舞台空間や、物語自体もそうですけども、そこだけじゃなく、俳優さんが本当に面白いですから。贅沢な作品になるんじゃないかなと思っていますし、やっぱり俳優さんに惚れてほしいですよね。演劇を観て、人を好きになってほしいなと思います。 取材・文:上野紀子 撮影:坂本彩美 ヘアメイク(朝夏まなと):根津しずえ <公演情報> 『ロボット』 原作:カレル・チャペック『ロボット』(海山社・栗栖茜訳) 潤色・演出:ノゾエ征爾 出演:水田航生 朝夏まなと/菅原永二 加治将樹 坂田聡 山本圭祐 小林きな子 内田健司 柴田鷹雄 根本大介/渡辺いっけい 【東京公演】 2024年11月16日(土)~12月1日(日) 会場:シアタートラム 【兵庫公演】 2024年12月14日(土)・15日(日) 会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール