Treasure of Baseball MLB戦略最高幹部が考える大谷翔平の価値/マリナック氏に聞く
<SHO-BLUE> ドジャース大谷翔平投手(29)は、MLBの世界戦略で大きな柱となっている。 米大リーグ機構のコミッショナー直属でリーグ運営、戦略を統括する最高幹部クリス・マリナック氏(43)が日刊スポーツの取材に応じ、アジア出身の大谷を「宝のような存在」と世界戦略の切り札として評価した。また、ラーム・エマニュエル駐日米国大使(64)は、大谷をマイケル・ジョーダンにたとえ「スポーツを超えた存在になる」と語った。【斎藤直樹、水次祥子】 ◇ ◇ ◇ MLB機構は今年、大谷の存在を実感した。韓国での開幕カード「ドジャース-パドレス」は、日本の視聴率を平均23・3%、視聴者数を約1700万人と計算する。これまで日本人選手が参加して行われた日本開催の08、12、19年は10%台前半。韓国内でチケットはわずか8分で完売し、SNS投稿数も過去最高だったと見積もった。 マーケティングなどを統括する最高幹部のマリナック氏は「このシリーズにおいて大谷翔平が与えたインパクトは大きかった。いろいろな数字に表れている。他の世界的な野球イベント、WBCでも彼の活躍があった。レギュラーシーズンでの活躍も大きなインパクトを与えたのは間違いない。韓国開幕シリーズの日本での視聴率が過去の大会より倍以上になった」と分析した。 大谷とダルビッシュの対戦は偶然の産物だった。「韓国でのドジャース-パドレスは、大谷がエンゼルスに在籍している時に決めたこと。ドジャースに入団し、韓国に行ったことは幸運だった」。日韓は時差がなく、午後7時開始の試合に「非常に大きな成功とみている。アジアのプライムタイムで生で試合が行われたことは、そちらのマーケットを考えた上で非常に大きかった」と話した。 来季は日本で開幕戦が予定されている。「直近では19年にイチローが現役最後の試合を行った。この大会は大きな成功を収めたので、同じインパクトを与える試合を開催したい」とマリナック氏。カードは未定で「現時点では来年やその先は開幕戦は固まったプランがない」としたが、イチロー引退に匹敵する衝撃を与えることができるのは、大谷の凱旋(がいせん)以外にはないだろう。 MLBは世界中に野球を広めることを狙っている。マリナック氏は具体的な国名こそ挙げないが「いろんな国、地域に通じるフルパッケージを用意して野球を広めたい。対象は広くラテンアメリカ諸国や南アメリカ諸国、ヨーロッパ、中東、アジア。全てが重要なマーケットと考えている」。試合の開催と並行して、世界中で「PLAY BALL」という若年層向け野球教室などの開催を視野に入れる。 世界の中でも特にアジアは、大谷が世界戦略の一端を担う。「重要な点として、アジアのマーケットを見た時には、アジア出身の大谷に親近感を持ってくれるのではないか。いつかああいう選手になれるのではと思い描いてくれれば。自分が同じようにやっていたら、MLBにいつか行って、MVPも取って、スーパースターというステータスを手にできるのではないか。そういうビジョンを彼らに作れる存在だと思う」。大谷のユニホームは今季、日本、米国、世界で最も売れている。韓国の開幕カードでも、圧倒的な売れ行きを誇っていた。 ベーブ・ルースの全盛期から約100年が経過した。投打二刀流という漫画のような大谷の出現を、リーグはまたとない市場拡大の好機と捉えている。「大谷は時代を象徴する選手。あれだけの選手は、これから先、次にいつ現れるか分からない。2度と現れないかもしれない。彼がいて、非常に私たちは幸運だ。このよき機会を使って、彼の素晴らしさ、素晴らしい能力、才能を世界中の皆さんに見てもらいたい」。さらに「野球にとって宝のような存在なので、現役の間はもちろん、引退してもインパクトを残してくれると思う。私たちも使っていかなくてはいけない」。生涯「野球大使」を期待していた。 ◆クリス・マリナック 1980年生まれ。米バージニア大では投手。ハーバードビジネススクールでMBA取得。08年米大リーグ機構入社。チーフオペレーション&ストラテジーオフィサーとして、コミッショナーの直属でリーグの運営、野球の国際的普及、試合スケジュールの組み立て、海外イベント、WBCなどを統括している。スポーツビジネスジャーナル誌の「Forty Under 40 Hall of Fame」に選出。 ■ジョーダン、アリのように エマニュエル駐日米大使 エマニュエル駐日米大使も、大谷に大きな期待をかけている1人だ。1月に都内の米国大使館で、一時帰国していた大谷と交流し、愛犬デコピンの特製ビザ(査証)を渡した縁もある(写真)。シカゴで生まれ育ち、シカゴ市長も務めた。自らも生粋の野球少年。「カブスのホームであるリグリーフィールドから6、7ブロックの近所に住んでいたので、いつも歩いて試合を見に行っていました」と言う。 4月に米大使館で開催されたMLBのイベントでは「大使としてではなく、1人のシカゴの少年として語りたいと思います」と切り出し、熱く語った。 「スポーツ界の枠を超えた存在になる選手がいます。マイケル・ジョーダンはチームを超えてスポーツの顔となり、それをも超える存在になりました。彼の背番号(23)は世界のシンボルになりました」 大谷に期待しているのは、まさにそんな選手像。「オオタニさんは必ずそんな選手になります。チームや国の枠を超え、野球の顔となって世界の人々を魅了していきます。ムハマド・アリのように、もっと大きなものを背負う存在になるでしょう」と今後のさらなる飛躍を予言した。