令和だけども!「24時間働けますか?」の精神で働いていた50代経営者…自らの働き方を見直すきっかけになった若手経営者からの“耳が痛い”ひと言とは?
「権限委譲の仕組みがないんじゃないですか?」
ある日、川口社長はある経営者団体の会合に参加しました。老舗企業を経営している高齢の社長が中心の集まりだったのですが、彼と年齢が近い若手経営者もいました。会合の冒頭、70歳を過ぎた団体の会長が、乾杯の挨拶として次のような訓示を述べました。 「近年では『働き方改革』などと言われており、社員らをあまり働かせてはいけないという風潮が蔓延しつつあります。ビジネスがしにくい世の中になりました。でも、我々経営者にはその縛りがありません。これまで通り、朝早く出社して、夜遅くまで働きましょう!」 会場は笑いと拍手に包まれました。川口社長も手を叩いて賛同の意を示しています。なぜなら「社長」というものは、会社の中で1番の働き者かつ仕事ができる人間であるべきで、その背中を社員に見せるのが仕事だと考えていたからです。だからすぐ隣にいた若手経営者から「まだこういう考え方の社長が多いんですかね。世界と差が開いてしまわないといいけど」と囁かれたとき、その言葉に驚きました。 歓談の時間になり、川口社長は先程の若手経営者に挨拶をして、発言の意味を聞こうとしました。彼は「ああ……」と言って、ウーロン茶で喉を潤してからこう続けました。 「簡単なことですよ。昔ながらの経営者は、働き方改革を『チャンスが減る』ものとしか考えていないんでしょう。だから社員は休ませるけど、その分自分が働けばいい、働くしかないと思っている。でも、それじゃあ会社は大きくなりません。だって社長も人間でしょう。ひとりの人間にできることは自ずと限られます。そんなことは、本人たちも分かっているはずなのですがね」 話を聞きながら、川口社長は耳が痛い思いをしていました。土日はもちろん、ゴールデンウィークやお盆、場合によっては年末年始も働いている自分を誇らしく思っていたからです。それをSNSに投稿すると、たくさんの経営者仲間から「いいね」やコメントがあったのも事実でした。 「あなたは、『社長はもっと休むべきだ』と?」 「ええ。そうですよ」 若手経営者は平然と言いました。 「私は創業以来、土日と祝日は必ず休んでいます。それ以外に長めの正月休みと夏休みをとり、家族はもちろん、自分のための大切な時間も確保しています」 「そうは言っても、創業期の社長はいくら働いても追いつかないほどの仕事がある。どうやってそんなに休めと言うのか……」 若手経営者は川口社長を見て、怪訝そうな表情を浮かべました。それからこう言いました。 「川口さん。もしかして御社には、権限委譲の仕組みがないんじゃないですか?」
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