激動の中東情勢 複雑に絡み合う対立の構図を整理する
7月8日、パレスチナのガザ地区をイスラエル軍が攻撃。31日までに1359名の死者を出しました。さらにシリア内戦、イランの核開発、イスラム過激派「イスラム国」によるイスラム国家樹立宣言など、中東では軍事的な緊張や衝突が絶えません。この背景には、当事者同士の複雑な関係があります。
■パレスチナの2つの勢力
パレスチナをめぐる対立は、中東情勢の根幹にある問題です。1947年の国連決議で、この地はユダヤ人とパレスチナ人(アラブ人)での分割が定められましたが、その後も衝突が繰り返されてきました。 パレスチナ自治政府には、ファタハとハマスの2つの勢力があります。主流派ファタハには特定の宗教に特別な政治的地位を認めない世俗派が多く、国連決議に沿ったイスラエルとの協議に積極的で、主に欧米諸国が支援してきました。一方、イスラム組織ハマスは国連決議に納得せず、「イスラエル打倒」を公言。イスラエルと軍事衝突するのは、主にハマスです。 ハマスは20世紀初頭にエジプトで生まれた「ムスリム同胞団」(Muslim Brotherhood、MB)のパレスチナ支部から分離した組織で、宗派はスンニ派に属します。そのため、サウジアラビアなどスンニ派アラブ諸国や、2002年にMB系の「公正発展党」が政権を握ったトルコから支援されているとみられます。
■イスラエルとエジプト
イスラエルは国連決議に反して、占領地にユダヤ人を入植させてきました(ガザ地区からは2005年に撤退)。これを一貫して擁護・支援してきたのは、国内のユダヤ人組織が大きな政治的発言力をもつ米国です。 多くの中東諸国はパレスチナを支持し、イスラエルを敵視する点でほぼ共通しますが、温度差もあります。イランやシリアはレバノンのシーア派イスラム組織「ヒズボラ」 を支援してイスラエルを攻撃。一方、サウジなどペルシャ湾岸の産油国は米国が大口顧客であるため、イスラエルと表立って対立することは稀で、パレスチナへの支援が主です。 また、イスラエルとの4度にわたる中東戦争で最前線に立ったエジプトは、負担の大きさから1979年に単独で平和条約を調印。それ以来、イスラエルと国交がある数少ないアラブの国として、米国との関係も深く、度々パレスチナでの調停役を果たしてきました。しかし、現在のエジプト政府は2013年7月のクーデタでMB系政権を打倒した軍が中心で、MBの「親戚」ハマスも敵視しているため、今回の衝突でも積極的に調停しているとはいえません。 さらに、2013年のクーデタ後のエジプトに対して、混乱を恐れるサウジなどは積極的に支援していますが、前政権と特に友好的だったトルコやカタールは関係が悪化するなど、スンニ派同士であってもイスラム諸国間の関係は複雑になっています。