小泉今日子×松尾潔「おれの歌を止めるな」自分の言葉とノリで、声を上げよう
組織のなかにいると見えないことがある
──年上の素敵な人たちが、小泉さんのまわりにいて、大切なことを伝えてくれたことがきっかけになったんですね。 小泉 私がいた事務所は、人数こそ少ないけれど芸能界の中心にいる感じのところで、私一人が「異端児」「変わり者」と言われてました。 松尾 いまでは個人で発信できるツールもあるし、アイドルのキャラ立ちが当たり前になってきたけれど、当時は小泉さんほど自己表現できる人はいなかったんじゃないかな。 小泉 それでも独立して、一人で歩き出した時に、「あ、私、思いこんでいたことがいっぱいあったんだ」とは思いました。だから、真面目に会社とか業界のなかにいる人って、嘘じゃなくて、本当に気づかないことはあるかも、って思う。 松尾 「真面目になかにいる人」って、キーワードですね。芸能界に限らず、ほとんどの日本人がそうかもしれない。 ──組織のなかにいる人、と言い換えてもいいのかな。 松尾 ええ。なおかつ、同じ組織に居続けるのが、日本では尊いこととされてきたから。 小泉 これまでは「組織を出ると干される」とか、あんまり良い例がなかったから、みんな怖かったと思う。でもいまは独立する人も増えたので、恐怖心はひとまずクリアできた気がします。芸能界に限らず、「こういうものだ」と思考停止させられる構造が社会にはあるけど、それを崩すのは大変ですよね。 松尾さんも本のなかで「いま、長年の膿が出ている」と書いていますが、私もそう思います。何かを変えるときには痛みがともなうものだけど、その痛みは希望でもあるから、みんなで甘んじて受け入れて、前に進めばいいのにな、って思うんです。 松尾 たとえばプロ野球の大谷翔平選手がそうだけど、「いずれメジャーへ行く」と言ったうえで日本の球団に入るという前例もできた。芸能界も小泉さんのように独立しても不義理とは言われなくなりつつある。 (2024年3月15日、東京・下北沢「本屋B&B」にて収録) こいずみ・きょうこ 歌手。俳優。1982年「私の16才」で芸能界デビュー。以降、テレビ、映画、舞台などで活躍。2015年から代表を務める「株式会社明後日」では舞台制作も手がける。また文筆家としても、著書に『黄色いマンション 黒い猫』(スイッチ・パブリッシング、第33回講談社エッセイ賞)『小泉今日子書評集』(中央公論新社)など多数ある。 わだ・しずか 音楽・相撲ライター。音楽評論家の湯川れい子氏のアシスタントを経てフリーに。政治・社会ジャンルでの作品も話題を呼んでいる。著書に『スー女のみかた~相撲ってなんて面白い! 』(シンコ―ミュー ジック)、『音楽に恋をして♪ 評伝・湯川れい子』(朝日新聞出版)、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)など多数。 やない・ゆうこ ライター。編集者。出版社で書籍編集、文庫の立ち上げに携わり、独立。作家、アーティストへのインタビュー記事のほか、古典芸能、文化、美術、工芸をテーマに執筆する。著書に『落語家と楽しむ男着物』(河出書房新社)、萩尾望都氏との共著『私の少女マンガ講義』(新潮文庫)などがある。 Instagram:yanaiyuko twitter:@yanaiyuko---------- 小泉今日子×松尾潔対論の中篇《付き合うべき人がくっきり見えてきた》 につづく ----------
小泉 今日子(女優)/松尾 潔(音楽プロデューサー)