新星・待川匙が文芸賞 直木賞候補に徳島舞台の2作【2024県内文学回顧】
文学賞で徳島関連の大きなニュースが届いた。 県南生まれの待川匙(まちかわさじ、31)の小説「光のそこで白くねむる」が8月、河出書房新社主催の第61回文芸賞に選ばれた。同賞は5大文芸誌の純文学新人賞の一つで、県出身者で46年ぶりの受賞となった。 文芸賞の待川匙さん(徳島県出身)インタビュー 普通の文章で普通に書いた 次作は県南を舞台に 「光のそこで―」は、勤務先の土産物屋が「無期限休業」となり、職を失った「わたし」が、10年ぶりに故郷の田舎町を訪れ、幼なじみ「キイちゃん」の墓参りに行く話。文章力などの評価が高く、満場一致での受賞となった。 来年1月に決まる第172回芥川賞の受賞が期待されたものの、候補5作品へのノミネートを逃した。しかし待川は、県出身者で初の同賞受賞を狙える実力を備えた「新星」と言え、次回作が注目される。 第172回直木賞の候補5作品が12月に発表され、徳島を舞台にした2作品が入った。ウミガメの上陸地として知られる県南沿岸で物語が展開する伊与原新(52)の「藍を継ぐ海」と、第10代徳島藩主蜂須賀重喜(しげよし)の藩政改革を描いた木下昌輝(50)の「秘色(ひそく)の契り 阿波宝暦明和の変 顚末譚(てんまつたん)」。選考会は芥川賞と同日の来年1月15日に都内で開かれる。受賞すれば徳島のPRにつながりそうだ。 四国大文学部4年の石澤遥(21)=盛岡市出身=の小説「金色の目」が2月、第30回三田文学新人賞の佳作に入った。石澤はこれまでにも、とくしま文学賞小説部門の最優秀賞、織田作之助青春賞などを受賞している。11月には県から、将来が期待される文化人を対象にした阿波文化創造賞が贈られた。 注目作の出版も相次いだ。 美馬市出身の文芸評論家三宅香帆(30)の新書「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(集英社)が4月に刊行され、23万部のベストセラーとなった。読書する余裕のない働き方に警鐘を鳴らす内容。10月には、書店員の投票による文芸賞「書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」の大賞に選ばれた。 作家の一色さゆり(36)は10月、藍住町で「ろう理容師」をしていた祖父をモデルにした小説「音のない理髪店」(講談社)を刊行した。徳島を舞台に、ろう者と健常者のつながりをテーマにした感動の物語。11月には徳島市の四国大学交流プラザで講演し、6年の歳月をかけた取材や執筆のエピソードを紹介した。 瀬戸内寂聴の顕彰活動は、没後3年の今年も活発に行われた。 趣味で句作を続けていた寂聴の遺句集「定命(じょうみょう)」(小学館)が5月に刊行された。顕彰団体「瀬戸内寂聴記念会」はこれに合わせ、「定命」を読む会を徳島市の県立文学書道館で開催。会員10人が、収録された166句の中から気に入った3句ずつを選び、解釈を語り合った。 記念会はこのほか、初期の作品を読み解く「寂聴文学を愉(たの)しむ会」を4回開催。命日(11月9日)前の4日には、NHK大河ドラマで源氏物語が脚光を浴びていることを踏まえ、寂聴の小説「女人源氏物語」を徳島市シビックセンターで朗読。命日当日は、同市の新町川水際公園の記念碑前でセレモニーを行った。 徳島の文芸発展に貢献した人の訃報も寄せられた。 徳島ペンクラブの元会長で県立文学書道館事業部長などを務めた丁山俊彦が12月2日、膵臓(すいぞう)がんのため、78歳で死去した。モラエス、野上彰、写楽など、徳島ゆかりの文化人の顕彰に精力的に取り組んだ。 徳島日本ポルトガル協会の会長を長年務めた桑原信義は8月20日、91歳で亡くなった。ポルトガルとの交流事業やモラエスの居宅跡の整備などに尽力した。 歌誌「徳島短歌」は1月、通算900号を達成。俳誌「鮎(あい)」は12月、336号で終刊となった。=敬称略