昭和南海地震78年「次の発生は2038年ごろ、予想に変化なし」 地震学者・尾池和夫さん「徳島に差し迫って危険性高い活断層ない」
徳島県南部を中心に甚大な被害をもたらした昭和南海地震から昨年12月21日で78年となった。8月には南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が気象庁から初めて発表され、大地震への警戒感が高まった。発生は近いのか。南海トラフ巨大地震の発生を「2038年ごろ」とみる地震学者の尾池和夫・元京大総長(84)=京都府宇治市=に聞いた。 【号外】南海トラフ、可能性高まる 気象庁が初の注意報 宮崎の震度6弱で
―臨時情報が初めて発表された。どう受け止めるべきか。 地震のあった日向灘は南海トラフ地震想定震源域の端にあり、20年に一度くらい大地震が起こっている。今まで繰り返してきた普通の地震が起きたにすぎない。この範囲でM6・8以上の地震が起きたら臨時情報を出す制度を新たにつくったので、今回は制度にのっとって臨時情報を発表したというだけだ。だから気象庁は「普段通りの生活をしてください」と繰り返した。ところが、初めてのことで自治体の人が驚いて大きく対応してしまったケースがあった。 ―日向灘は大地震の危険が高いのか。 南海トラフと琉球海溝が出合うのが日向灘。海溝がくの字型に出合う場所の内側だ。沈み込むフィリピン海プレートが地下で複雑に重なり合ってしわをつくっている。そのためよく岩盤が割れる。マグニチュード(M)7規模の地震がしょっちゅう起きる仕組みだ。つまり、(エネルギーをため込む)南海トラフ巨大地震のような規模の地震は日向灘では起こらない。 ―南海トラフを巡る状況は変わっているのか。 制度(臨時情報)は人がつくるもので、地震は自然現象だ。制度を設けたからといって自然が変わるということはない。 ―次の南海トラフ地震が2038年ごろに起きるとする根拠は。 南海トラフ巨大地震はおよそ100年に一度起こる自然現象。前回は1944年の昭和東南海地震と46年の昭和南海地震だったから次は2038年ごろだろうというだけだ。その予想は変わらない。 ―日本の地震の傾向についてどう考えるか。 日向灘の地震活動は全体的に頻度が高い。特に南海トラフ巨大地震の前後には地震活動頻度が高くなる。日向灘ではしばらく静穏だったが、最近活動を始めている。徳島を含む西日本内陸部の地震活動は1995年の阪神淡路大震災以降、活動期に入っている。従ってやはり今世紀前半の2038年ごろに南海トラフ巨大地震が起きるとの見方が自然だ。 ―徳島の地震を巡る環境はどうなのか。 徳島に差し迫って危険性の高い活断層はない。徳島県の直下で起きる大地震の心配はない。しかし、徳島市など液状化しやすい地域が多いのは注意が必要だ。 おいけ・かずお 地球科学者。専門は地震学。1940年生まれ。高知県出身。土佐高校から京都大理学部地球物理学科を卒業。京都大防災研究所助教授、大学院理学研究科、理学部教授。2003年から08年まで京大総長を務めた。京都芸術大学長、静岡県立大学長、地震学会委員長、日本学術会議連携会員を歴任。主な著書に「2038年南海トラフの巨大地震」。