サメやゾウを調べてわかった「長寿の秘密」 子供と大人で異なる時間の”濃度”とは
400年も生きるサメ、若返るクラゲ、2年で死ぬネズミと37年生きるネズミetc... 【写真】サメやゾウを調べてわかった「長寿の秘密」子供と大人で異なる時間の 一方、知恵を得た人類は、超高齢社会を実現させた。 しかし、生きものにはそれぞれ寿命が存在し、人類も例外ではない。さまざまな寿命を追うとともに、何が寿命の要因・背景なのか。動物の種類や、ヒトの大人や子どもで時間の流れはどう違うのか、考えてみよう。 新刊『老化と寿命の謎』では、ベテラン科学記者・飯島裕一が研究の最前線に迫る! *本記事は飯島裕一『老化と寿命の謎』から抜粋・再編集したものです。
種ごとに異なる時間の”濃度”
時計が刻む「物理的時間」と異なり、ゾウにはゾウの、ネズミにはネズミの「生理的時間」があるとされる。種によって時間の流れの速さが異なるというのだ。 こうした見地からの「時間」の比較は、代謝量に関わる体温、体重が異なる動物では複雑になる。体重200グラム、体温38度のネズミと、体重400キロ、体温0度のニシオンデンザメではどうだろうか。総合研究大学院大学統合進化科学研究センターの渡辺佑基教授に計算してもらった。 ネズミの感じている時間の”濃度”は、ニシオンデンザメに比べて350倍も濃い。ネズミにとっての1日は、ニシオンデンザメの1年に相当する重みがあるのだ。脳の認知力の違いをはじめ複雑な要素もあるが、ネズミはせかせか、ニシオンデンザメはゆったり生きていることになる。 さらに、このニシオンデンザメと、体重60キロ、体温37度のヒトを比べると、ヒトにとっての1日は、ニシオンデンザメの1月半の重みに当たるという。
体が大きく脈拍がゆっくりなゾウは長命
私たち哺乳類では、体の大きい動物ほど寿命が長く、小さいほど短命な傾向が見られる。生きものが一定時間に消費するエネルギーの量=代謝量(代謝率)が違うからである。渡辺教授は、「代謝量は、体重と体温の二つの要素で大まかに決まる」と説明した。 体重1キロ当たりの代謝量を、大小さまざまな動物で比べると、体重が増えるに従って減っていく。渡辺教授は、「代謝量は、体重の4分の3乗に比例していて、体が大きくなるほど体の割にはエネルギーを消費しなくなる。逆に体が小さくなるほど高出力になる」と語った。代謝量には、体のスケール効果が見られるのである。 古い資料だが、米国のカトラー博士(老化学)による「哺乳類の寿命と代謝量の関係」のグラフ(図1)を見ると、体が大きい動物が長寿であり、グラム当たりの代謝量が低い傾向にあることがわかる。 代謝量は血液によって運ばれる酸素の消費量でもある。体重のスケール効果から、血液を送り出す心臓や呼吸に伴う肺の動きは、体重の4分の1乗に比例してゆっくりになる。ネズミのように体が小さな動物ほど脈拍は速く短命であり、体が大きく脈拍がゆっくりなゾウは長命だ。 かつて取材した、寿命に詳しい能村哲郎・埼玉大学名誉教授(故人)が、「モーターを速く回せば、消耗も速くなるということですよ」と語ったことを思い出す。