ゆっくり進め(6月23日)
その告白は突然だった。若者に人気のバンド「サカナクション」のボーカル山口一郎さんが、うつ病を患っていると明かした。「苦しくてあがいていた。つらかった…」。2年近く活動を休んだ▼新型コロナ禍は音楽界にも暗い影を落とした。歌ったり踊ったりする場がなくなり、多くのアーティストが仕事を失った。ライブ、テレビ、ラジオと華やかな舞台できらめいていた山口さんは、無為の日々に心が悲鳴を上げたのだろうか▼厚生労働省のまとめによると、うつ病を含む精神疾患の患者は増加傾向にある。膨大な情報に追われ、将来に漠然と不安を抱く。孤独感にもさいなまれる。病は現代社会の「生きにくさ」を映し出しているようでもある。「うつは誰にでも起きうる」と、県は悩みがあれば専門の窓口を利用するよう呼びかける▼山口さんは4月にバンドに復帰し現在、ツアーで全国を回っている。病状は一進一退。でも、「自分には音楽しかない」と前を向く。楽曲「アルクアラウンド」で歌う。♪この地で 今始まる意味を探し求め また歩き始める―。焦らず、みんな、ゆっくり進めばいい。安心して立ち止まれる幕あいがこの社会にあれば、なおいい。<2024・6・23>