地方に大学誘致できると思ったが…「交渉もなかった」 国の脱”東京一極集中”はかけ声倒れ 若者流出の歯止めへの期待したが、自治体「後はお任せでは…」
実現しなかったサテライトキャンパス設置「交渉もなかった」
今月12日、長野県安曇野市穂高交流学習センターみらい。東京芸術大大学院を修了した若手芸術家が手がけた作品が並んでいた。市内に滞在して制作に取り組む市の「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)」事業の一環だ。 【写真】安曇野市が東京芸大と連携して取り組む事業の一端。拠点整備も進めている AIR事業は2022年度にスタート。若手を中心に市ゆかりの芸術家を育て、安曇野と継続的に関わる首都圏の「関係人口」を増やそうと、東京芸大と連携している。市は本年度、芸術家らが滞在できる拠点整備も進めている。 15年以来、転入が転出を上回る「社会増」が続く安曇野だが、塩尻市を含む松本地方3市で唯一、大学がない。市では17年ごろ、サテライトキャンパス(SC)設置の機運が高まったことがあったが実現しなかった。当時の市長、宮沢宗弘さん(84)は「誘致する場所が見つからず、大学側との具体的な交渉もなかった」と振り返る。
”東京一極集中”是正、積極的な働きかけなく
きっかけは、東京一極集中の是正を掲げた政府方針だ。17年に閣議決定した「まち・ひと・しごと創生基本方針」では地方創生関連政策の一つとして、SC設置の促進が盛られていた。 東京の大学の定員抑制や地方移転を進めつつ、地方の定住人口の増加や、地元以外の大学との連携強化などが目的だったが、そこに積極的な国の働きかけはなかった。
若者流出、悩む地方
県県民の学び支援課によると、県内の18歳人口1万9003人(23年度)のうち、県内大学に進んだ人数は4117人で、2割程度。多くの若者が首都圏に進学し、現地で就職するという流れに、県内自治体は頭を悩ませる。
歯止めに期待した自治体
そんな中、国が示したSCの設置促進の方針。若者流出の歯止めになる―と期待した自治体は一定数あった。内閣府・地方創生推進室が運営する、大学と自治体を結ぶマッチングサイト「地方創生×キャンパス」には、県内で安曇野のほかに長野や飯田など11市町村が誘致希望自治体として登録する(23日時点)。
自治体担当者「国は『後はお任せ』では」
しかし、誘致の具体的な取り組みは各自治体と大学に任された。同推進室は「SC設置の主体は大学と自治体」と説明。誘致に手を挙げた中信地方の自治体の担当者は「地方の自治体に誘致のノウハウも経験もない。『提案だけして後はお任せ』では難しい」と不満を口にする。