地方に大学誘致できると思ったが…「交渉もなかった」 国の脱”東京一極集中”はかけ声倒れ 若者流出の歯止めへの期待したが、自治体「後はお任せでは…」
国は件数把握せず
同推進室に地方創生と関連づいたSC設置の件数を尋ねても、「全ては追えていない」と消極的な答えが返ってきた。
大学も学生も”都心回帰”加速
地方へのSC設置が進まない一方、大学や学生は首都圏を志向する傾向を強めている。 日本私立学校振興・共済事業団が実施した調査では、本年度春時点で定員割れした四年制の私立大は354校。回答した598校の6割に当たり、記録が残る1989年度以降、最多だった。首都圏の大学は利便性や学生の就職活動を念頭に、郊外型のキャンパスを都心に戻す「回帰」の動きを加速させている。
「学びを生かす場は東京」
学ぶ環境や就職の場として、首都圏に魅力を感じる若者も多い。長野市出身で上智大2年の豊田杏実さん(19)は県内大学は進学候補になく、就職活動も都心に拠点を置く企業を考えている。「学んできたことを生かすとなると東京なのかな」と話す。
そもそも地方移転必要? 仕事なければ結局…
ニッセイ基礎研究所の天野馨南子・人口動態シニアリサーチャー(52)は、地方に大学を設置しても「魅力的な仕事がなければ結局、外に出る」と指摘。若者の流出の阻止は、雇用対策とセットで進めるべきだと説明する。県内のある自治体関係者は、都心回帰を強める環境の変化も念頭に「そもそも地方のSCが必要という考えが今も成り立つのか」と疑問を呈した。
地方自治の専門家「小規模自治体が単独で進めるのは難しい」
地方自治に詳しい東北大大学院の河村和徳准教授(53)=政治学=に、地方創生の一環で進められているサテライトキャンパス(SC)政策の在り方や、若年人口の流出を食い止めるヒントを聞いた。 ―地方へのSC設置は進んでいるのか。 「成功例もあるかもしれないが、小規模な自治体が単独で進めることは難しい。SCの誘致に専従できる職員を確保しづらく、ノウハウもないためだ。特に、人口が10万人を割る市町村では対応しにくいと考えられ、希望しながらも放置した自治体は多いのではないか」
地方に若者を取り戻す施策必要
―SC設置を進める国の政策をどう評価するか。 「文科省が一部のトップ大学に予算や人材を集中させようとする中、内閣府が地方に大学を分散させようとするのは相いれない面があるのではないか。そもそも、地域活性化のためにSCを誘致するのであれば、地域に新たな知の拠点を作ろうと熱心に取り組む大学教員を一定数、確保することが不可欠だ。ただ、実際にそれを全国各地で実行することは難しい」 ―地方の若者の流出を食い止めるには。 「東京に出た若年層を取り戻す施策が必要だ。全ての人が東京で働き続けることを望むわけではない。そのような人から選ばれる自治体になれるかが鍵になる。東京での生活が合わなかった人のため、セーフティーネット(安全網)になれる街を目指してはどうか」
―選ばれるために必要な視点は。 「自分たちの強みを徹底的に分析することだ。長野県は移住したい県として人気が高いが、地元の人たちが自分の住む地域の良さを理解していない面もある。『なぜ選ばれるのか』『長野県にしかない、突き抜けたものは何か』を考えなくてはいけない」