“慰安”実態迫る、犠牲の実像浮き彫り 終戦直後の日本など調査、歴史学者・平井さん女性史研究賞受賞
一橋大客員研究員で歴史学者の平井和子さん(69)=清水町=の近著「占領下の女性たち-日本と満洲の性暴力・性売買・『親密な交際』」(岩波書店)が、優れた女性史研究に贈られる「女性史青山なを賞」を受賞した。終戦直後の日本や旧満州(中国東北部)で公的に行われた戦勝国の兵士に対する“慰安”の実態に迫った著作で、10年以上にわたる調査の集大成として昨年出版した。 近現代女性史・ジェンダー史が専門の平井さんは、終戦後に占領軍兵士の“慰安”のため日本政府主導で全国に開設された特殊慰安施設協会(RAA)の各種施設や、旧満州からの引き揚げ期に現地に設けられた「慰安所」「接待所」などについて調査。埋もれた資料や関係者の証言を丹念に収集し、“性の防波堤”などと呼ばれて犠牲を強いられた女性たちの実像を浮かび上がらせた。 静岡県内関連では、米軍の意向で熱海に置かれたRAAの施設を取り上げ、戦前からの花街を擁した地域との間で共生関係が築かれた点にも着目した。生き延びるため、極限の状態で発揮された女性自身の決断力や行動力を「主体的営為」として評価した。 ジェンダー的視点から占領下で起きた性暴力の構造を明らかにし、米国による日本占領を「成功した占領」とする定評に疑問を呈す。売春経験のある女性を中心とした「差し出される女性」と一般の「守られる女性」の分断や、被害者を沈黙させてきた差別意識にも警鐘を鳴らしている。 青山なを賞は、東京女子大女性学研究所(東京)が年1回、女性史研究の優れた著作に贈る。平井さんは「性に関する問題は、女性史の中でもほとんど可視化されてこなかった。長年の取り組みが評価されたことをうれしく思う」と話す。 11日には、東京女子大で平井さんの記念講演会が開催される。オンラインでも配信する。一般の聴講可(要申し込み)。
静岡新聞社