ロシア・中国など主要新興国によるBRICSにASEAN諸国が加盟、どこまで深刻に考えるべきか?
■ ロシア産原油で荒稼ぎする国々 ASEANにはエネルギー自給率が高い国が多い(図表2)。インドネシアとマレーシア、タイの3カ国とも産油国であるし、天然ガスも豊富だ。インドネシアとマレーシアの場合、天然ガスは完全に輸出超過である。それにインドネシアの場合、石炭が豊富に存在する。つまり、エネルギー安全保障の観点からロシアと協力関係を深める意味はあまり大きくない。 【図表2 フィリピンを除くASEAN5のエネルギー自給率(2023年、生産/消費、%)】 もちろん、割安なロシア産原油を購入する意味合いは大きい。 G7とオーストラリアによる経済制裁を受けて、ロシア産の原油価格は国際価格に比べると割り引かれて取引されている。中東の産油国のように、ASEAN3カ国も割安なロシア産原油を輸入して国内で製油し、この「国内産」を国際価格で先進国に輸出すれば、利ザヤを稼ぐことができる。 とはいえ、実際のところ、ASEAN3カ国はロシア産原油の輸入に慎重である。ロシア産原油を公に輸入するような事態となれば、先進国との間で軋轢が生じるためだ。それに、米国によって「二次制裁」を科されるリスクも大きい。米国の金融市場から締め出され、米ドルの利用ができなくなることは、ASEAN3カ国にとって死活問題となる。 それよりも、BRICSに加盟を申請したASEAN3カ国にとって重要なことは、中国との経済関係の深化にあると言えよう。 貿易統計から明確なように、ASEAN3カ国にとって中国は重要な貿易パートナーだ。それだけではなく、中国からは多額の投資も望める。ASEAN3カ国にとって、中国との関係を深めることには大きな意味がある。
■ BRICS決済網はどこまでリアルか? 中国との経済的な関係の深化が見込めるからこそ、ASEAN3カ国はBRICSに加盟を申請したというところだろう。実際、BRICSに参加したところで、BRICSそのものが極めて緩やかなつながりであるため、その枠組みから経済的な利益が見込めるわけではない。つまり、BRIS銀行よりも中国輸出入銀行からの投融資の方がインパクトは大きい。 ASEAN3カ国によるBRICSへの加盟申請は、やはり中国との経済関係の強化を模索するうえでの外交戦略の一つなのだろう。今回のBRICS首脳会議ではロシアが前面に立っているが、BRICSの実際の中心は中国である。ロシアは中国という虎の威を借りた狐のような立ち位置だと表現していいだろう。 ところで、BRICSの拡大で、独自の決済網(BRICS決済網)によるBRICS間の貿易の多国間決済が拡がるという見方もあるが、ASEAN3カ国の貿易統計も示すように、BRICS決済網を通じてBRICS間の多国間決済を行うよりも、人民元決済網(CIPS)を通じて中国と経済的に近しい国々との間で多国間決済を行う方が、利便性は高いし現実的だ。 人民元の国際化を志向している中国は、CIPSの拡大にも野心的である。一方、CIPSがヨーロッパのSWIFT(国際銀行間通信協会)に代わるような決済網になるためには、資本規制の緩和を通じて人民元の国際化そのものを進めなければならない。しかしながら、2015年の人民元ショック以降、中国は資本規制の緩和を止めてしまった。 国際金融の世界には、為替相場の安定性、金融政策の独立性、資本移動の自由が同時に成立しないという命題(国際金融のトリレンマ)がある。中国は2015年の人民元ショックを受けて、為替相場の安定性を重視するに至った。さらに過剰供給問題を抱える中国は、需要刺激のための金融緩和が必要なため、金融政策の独立性を重視する。 そうなると、中国は資本移動の自由を制限する必要がある。しかしこれは、人民元の国際化にはブレーキとして働く。過剰供給問題の解消は急務であるから、為替相場への介入を弱めることが現実的な選択肢だが、その場合は人民元相場の急騰や急落も容認しなければならない。この展開を許容できるなら、中国は既に許容しているだろう。