レスリング世界選手権で金メダル1号の太田忍が東京五輪代表内定に無縁階級に出場した理由とは?
優勝を決めた直後にマット上でくるりとバク宙したが、「そんなことしたんだ」というくらい、夢心地の興奮状態で何をしていたか思い出せない。少し時間をおいた表彰式で表彰台にあがると、頬が緩むのをとめられず、会場の大画面モニターいっぱいに、思い切り崩れた顔が大写しになった。 「笑わずにいられないですよ。あんなに気持ちいいのに!」 金メダルと、世界選手権の優勝者だけに渡されるチャンピオンベルトを持った太田は、「本当は決勝まで全部、テクニカルフォール勝ちにしたかった」と悔しがったが、「こんなに気持ちいいものなんですね」と、世界チャンピオンの喜びを存分に楽しんでいるようだ。そして「非五輪階級だけど、僕が優勝することで、日本のグレコローマンの強化方針は間違っていない、強くなれていると証明できたと思う」と胸を張った。 非五輪階級とはいえ世界チャンピオンになったことは、「目標は東京五輪での金メダル」と明言する太田にとって、具体的な指針を与えてくれたのだろうか? ひとつ上の67kg級では今大会代表の高橋が5位入賞できないことがすでに確定した。もともと代表争いをしていた60kg級の試合は、これから始まる。 「五輪に出場するというだけなら、60kg級でも67kg級でも出られる力が自分にはあります。でも、金メダルをと考えたら、やはり60kg級だと思う。67kg級の試合を今回、目の前でいくつも見ましたが、みんな本当に強い。リオ五輪決勝で負けたボレロ(キューバ)がいて、彼と去年の世界チャンピオンのスルコフ(ロシア)が決勝にすすみました。ほかにも、チャンピオンが何人もそろっていて強い」 だからといって、ライバルである60kg級の文田が五輪内定を逃せばいいとは思えない。自分に勝って代表になったのだから、なおさら活躍してほしい気持ちもあり、胸中は複雑だ。そのややこしさを紛らわすかのように「チャンピオンベルト、さっそく見せてやりますよ。あいつは、そういうことを気にするタイプでもないし(笑)」と、大学の後輩でもある60kg級日本代表へエールを送った。 世界チャンピオンとなった太田が、どんな形で東京五輪を目指すことになるのか。もうすぐ、その結果が出る。 (文責・横森綾/フリーライター)