レスリング世界選手権で金メダル1号の太田忍が東京五輪代表内定に無縁階級に出場した理由とは?
「気持ちいい!」と開口一番に叫んだ太田忍(25、ALSOK)は、レスリング世界チャンピオンになった恍惚を素直に表現した口調のまま「この優勝は東京五輪には関係が無いこと」と続けた。 カザフスタンで開幕したレスリングの世界選手権で日本が早くも金メダルを獲得した。男子グレコローマン63kg級である。今大会でのメダル獲得者は、東京五輪代表に内定するが、太田の出場した63kg級は五輪対象の階級にはない。リオ五輪の銀メダリストでもある太田がいう「関係ないこと」とは、文字通り東京五輪代表内定にも出場枠にも直接、繋がらないという意味だ。 太田は、東京五輪で実施されるグレコローマン60kg級の日本代表争いで文田健一郎(ミキハウス)に敗れ、五輪で実施されない同63kg級代表として世界選手権に出場したのだ。 五輪は競技ごとに参加選手数が定められており、レスリングはその人数から逆算して、グレコローマンスタイル、フリースタイル、女子の3種目で軽量級から重量級までそれぞれ6階級を定めている。グレコでは60・67・77・87・97・130kg級が五輪で実施される階級と決定されたが、本音をいえば、無理な減量や増量を選手が迫られることがないように、もっと細やかな階級制度を設けたい。五輪は大切な大会だが、選手の健康を損なわない形で競技を継続できるように、五輪では実施しない階級55・63・72・82kg級も設定された。その非五輪階級での成績は、当然ながら日本の東京五輪代表選考の対象になっていない。 それでも「何もしないで待つだけ、は自分にはできない」と、60kg級代表争いで文田に敗れた太田は、非五輪階級である63kg級の代表決定プレーオフに挑戦し権利を得て、いつもと違う階級で世界チャンピオンを目指すことにした。増量は問題ないのかという問いに、太田は「待つことしかできない立場だけれど」と前置きしたうえで、自分なりの待つ方法を語っていた。 「この階級(63kg級)で世界一になっても、東京五輪への意味は何も無い。でも、今の僕にとって東京五輪への準備という面では、ここで世界チャンピオンを目指すのが一番、いい方法だと信じています」