親の『中学受験は大変だから小学校受験』というマインドの正体【外山薫さんインタビュー】|VERY
偏差値、出口よりも「どんな子に育ってほしいか」
――作中で、模試の結果で浮かれた茜がお受験教室の先生の一言で現実に引き戻されます。偏差値や進学実績だけに注目する、子どもの成長を焦りすぎるという点は、親が陥りがちな「危うさ」だと感じました。 偏差値という一点だけで測ると、小学校はコスパが良いとは言えないと思います。名門校の付属小に入れるよりも、その大学を18歳で受けたほうが入りやすいので。でも小学校受験の良さを聞いていると、「出口」の話をしている人にはほとんど出会いません。「竹馬の友」ができること、同じ価値観を持つものどうしで交流できることが意義だと感じました。ある意味、就職活動に似たところがあると思います。「自分の子どもにどんなふうに育ってほしいか」を考え抜いて選ばないと、入ってからギャップに苦しむ気がします。 ――取材、執筆を通して、外山さんの「小学校受験観」はどのように変化しましたか? 正直なところ、これまで「お受験」には子どもを型にはめるというイメージを持っていました。5歳の子が大人の言うことなんて素直に聞くわけがないだろう、と。でも、実際に取材した小学校受験経験者のほとんどが「やってよかった」と話してくれました。ひな人形にはどんな意味が込められているのか、実際に飾りながら学ぶ。公園で葉っぱをスケッチして、針葉樹や広葉樹の違いを知る。今の学校教育でカバーしきれていないことにも触れています。知っていればより人生が豊かになるという点で、受験させるのも悪くないと思いました。
“我が子には学歴よりも「犬と暮らす生活」を与えたい”
――外山さんは共働きで複数のお子さんを育てています。ご自身の作品に登場する人物たちのように、お子さんの教育にのめり込むようなことはないのでしょうか。 自分のやりたいことをセーブしてまで、子に人生を捧げるのは難しい性格だと自覚しています。勉強は塾にアウトソースして割り切っているところがありますし、ご飯だけ炊いてスーパーで惣菜を買うのが週に数回。丁寧な暮らしとは程遠いけれど、家族みんなが元気ならOK。これは夫婦共通の価値観です。 唯一、英語教育にだけは力を入れています。私は英語コンプレックスがあるので。自分の人生のリベンジも込めて、子どもには英語をがんばってほしいと思っています。小説では誰かの生き方についてあれこれ書いていますが、客観的に見れば自分自身も「ダサい人」の一人。そこそこ勉強して大学に入り、共働きで住宅ローンを組んで東京に暮らしています。SNSでいじっている「東京での消耗する暮らし」には、私自身も含まれています。小学校受験させるのもいいなとは思いつつも、一歩引いて俯瞰するクセがあります。 ――そこも外山さんが共感を集めるポイントの一つだと思います。 ありがとうございます。今振り返ると、大学生活で受けた衝撃が大きかったんですよ。慶應で上を見るとキリがないので。だから自分の手持ちのカードで幸せに暮らすことを目指そうと決心しました。 ちなみに、最近犬を飼い始めました。幼少期に親に「犬を飼いたい」とねだったものの受け入れてもらえなかったので、大人になったら絶対叶えたいと思っていました。子どもには学歴よりも、犬と一緒に暮らす生活から何かを得てもらいたいのです。これも自分の人生のリベンジと言えるかもしれません。