ガンダムも巨人の星もキングダムも「杉並」生まれ…制作会社数が全国ダントツ、「アニメの街」となった秘密
こうして集まった制作会社は、杉並の地に溶け込んでいった。
76年に同区上井草に設立された「サンライズ」(現バンダイナムコフィルムワークス)もその一つ。創業メンバーが練馬区にあった「虫プロダクション」出身者らで占められたことから、虫プロと同じ西武線沿いで家賃の手頃な場所を探して上井草に落ち着いたとされる。
「機動戦士ガンダム」シリーズなどのヒットを飛ばした後、規模拡大のため2021年に上井草を離れたが、創業の地である上井草の駅前には今もガンダムのモニュメントが立つ。地元商店街からの要望を受け、杉並区がサンライズの協力を得て設置したものだ。
会社の移転先もまた、同じ区内の荻窪駅近くだった。バンダイナムコフィルムワークス経営企画部で広報を担当する阿久津理恵さん(50)は、「アットホームな地域の人々に支えられた。これからも地域に溶け込みながら作品を作っていきたい」と語った。
先人たちが杉並で築いた基盤は、現代のアニメーターたちを支えている。区内でアニメスタジオを運営する株式会社「HIKE」執行役員の堀口広太郎さん(42)は「杉並にはアニメーターがたくさんいるし、不動産会社の理解もあってオフィスが借りやすい」と話す。
区内では、ヒット作を生んだ制作会社が規模拡大のために別のオフィスに移ると、すぐに新しい制作会社が入居する好循環が生まれているという。堀口さんは、「アニメ制作の歴史が深く、土壌ができているのが杉並のよいところ」と指摘する。
今や杉並の「地場産業」ともなったアニメを地域振興につなげようと、区は11月9、10日、「すぎアニエキスポ」を開催した。地元の制作会社10社がブースを構え、作品の絵コンテや台本、原画を展示したり、アニメーターが来場者の似顔絵を描いたりした。
企画した区産業振興センターの田中総一郎さん(30)は「アニメ制作会社と協力関係を作り、官民でアニメの街として盛り上げていきたい」と意気込んでいる。杉並のアニメ熱は冷めそうにない。