ハライチ岩井、サイン会でパニックに陥る…会場から逃げ出したくなった気持ち悪い質問とは?
お笑い芸人・ハライチの岩井勇気による連載エッセイがパワーアップして再始動! 「人生には事件なんて起きないほうがいい」と思っていたはずが……独自の視点で日常に潜むちょっとした違和感を綴ります。今回のテーマは「初めてのサイン会」です。 *** 小学生の頃、ずっと漫画を読んでいた。そもそも父親が漫画の週刊誌を毎週4、5冊買っていたので、とにかく多くの最新話を読める、漫画英才教育を受けていたのだ。 当時、それだけの量の漫画雑誌を毎週買っているのは同級生の中では僕の家だけで、雑誌の発売日から2日過ぎると、友達が僕と父親の読み終わった雑誌をもらいに、わざわざ住んでいた公営団地の5階まで訪ねてきていた。そしてその友達はもらった雑誌を次の友達に、さらにまた次の友達に、といった“回し読み”と呼ばれるものの源流に僕はいた。そのことには、子供ながら優越感を覚えていたと思う。 大人になるにつれ、自分のお金で単行本を買うようになり、電車に乗るたびに駅の本屋で買っていたら、家にある漫画は3000冊程になった。 そんな漫画も30歳の時、一人暮らしを始めるにあたって全て実家に置いてきてしまった。漫画は買わなくなり、その代わりに、アニメをひたすら観るようになっていったのだ。 しかし、アニメに移行してからも1冊だけ月刊の漫画雑誌を毎月買っていた。それはいわゆる“成人指定”の雑誌であった。性描写のある漫画が毎月何作も掲載されている雑誌を、僕は面白半分で購読していた。 やがて毎月購読している中で、気になる作品に出会ったのだ。その作品は、他の作品とは絵のテイストが明らかに違った。どこか、この雑誌を読むような人の好みの絵からは外れていて、特徴的なのだ。話も性描写がメインではなく、ストーリーを読ませてくれるようなもので、絵も相まって、掲載されている作品の中ではかなり異色に感じられた。 僕はこの作品を描く漫画家が気になり、インターネットで漫画家のことを調べ、出てきた作品を読み漁った。そして、そのままのめり込んでいった。 さらに調べていく内に僕はある情報に辿り着く。近日、その漫画家のサイン会があるというのだ。概要を見ると抽選に当選するのは100名、当日会場限定で販売される冊子を買い、それにサインをしてもらえるというものであった。よく見ると、応募の締め切りが迫っている。僕はすぐ応募の手続きを行い、当選発表を待った。 数日後、メールボックスに抽選結果が送られてきていた。開けると、そこには『当選』の文字。どれくらいの応募があったのかはわからないが、嬉しかった。が、僕は同時にあることに気付いた。誰かのサイン会など、一度も行ったことがないのだ。