インド映画が踊りまくるのはなぜ?年間製作約2000本、世界一の映画大国に見る特殊な事情
これは、多言語国家のインドでは、言葉よりも踊る方が観客にわかりやすいのと、ラブシーンではキスをするのが忌避されるので、代わりに情熱的に踊って愛情を表現するためです。そもそもインドの演劇論では踊りも演劇の一部なのです。 『Om Shanti Om』(邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム、2007年)は、インドの国民的大スターであるシャー・ルク・カーン主演の大作で、2007年にインドで興行成績トップとなりました。 ストーリーはこのようなものです。1977年のボンベイ(現ムンバイ)でエキストラ俳優の両親のもとに生まれた青年オームは、スターを夢見る脇役俳優でした。女優シャンティに淡い恋心を抱いていますが、遠くから眺めるだけ。 でも、撮影現場の事故からシャンティを救出したことがきっかけで、オームは彼女と急接近します。しかし、実は彼女は売れっ子プロデューサーのムケーシュと結婚し、妊娠していたのです。更なる成功を求めるムケーシュは、彼女が邪魔になっていました。そこで、シャンティを映画のセットに呼び出し、燃え上がる部屋に閉じ込めて殺します。 オームが現場に駆けつけ、救出しようとしましたがセットは爆発。爆風で吹き飛ばされたオームは、映画スターのカプール夫妻の車に轢かれ、病院で息を引き取ります。しかしそのとき、カプールの妻が男児オーム・カプールを出産しました。 30年後、オーム・カプールは超人気俳優になっていました。ある映画賞の授賞式でオーム・カプールはムケーシュと出会い、前世の記憶が戻ります。母や親友パップーと再会し、手助けしてもらい、復讐のために、事件で中止となった「オーム・シャンティ・オーム」の制作をふたたび開始します。 すると、そのオーディションにシャンティそっくりの女優サンディが現れ、復讐計画は実行されます。
● 「名前はクマールかカプール」に インド映画界への皮肉が込められた この映画では、過去と現在の映画界を舞台にしています。30年前のオームの名前は、「オーム・プラカージュ・マッキージャ」です。「オーム」は祈りの言葉で、「プラカージュ」は光、「マッキージャ」はハエという意味です。 友人に「その名前ではだめだ。名前はクマールかカプールがよい」と言われます。 なぜなら、インドの映画界では、「クマール」、「カプール」は多くの映画人を輩出している家系だからです。これらの一族からは俳優だけではなく、監督、脚本家、プロデューサーなどの映画関係者を多く輩出しています。 たとえば、カプール一族を例に見てみましょう。女優のカリーナ・カプール、カリシュマ・カプールの祖父は、監督・俳優・プロデューサーのラージ・カプール、俳優ランビール・カプールの父は俳優リシ・カプールで祖父はラージ・カプール、曾祖父は俳優プリトヴィーラージ・カプールです。俳優のアニル・カプールは父が映画プロデューサー、アニルの娘は女優のソーナム・カプールです。 このようにカプール一族は2世、3世と映画界に人材を送り出している名門です。ここで取り上げたのは俳優・女優ですが、他にも監督、脚本家など広く映画関係の仕事についています。 その人脈は映画界では多岐にわたり、カプール一族に所属していることが映画界では大きな強みとなっています。 『恋する輪廻』でもカプール一族に生まれるのと生まれないのとでは大違いだとされているのはもっともなことです。カプール一族であると俳優・女優としてのデビューも有利なのです。30年前のオームはそのチャンスすらなかったのです。 カプール一族以外にも、『RRR』でビーム役のNTR.Jrの父はナンダムーリ・ハリクリシュナ、祖父は俳優・監督・政治家のN.T,ラーマ・ラオです。 彼はテルグ語映画で最も有名な俳優ともいわれるのと同時にアーンドラ・プラデーシュ州首相も務めた大物政治家でもありました。