レースのエンジンは壊れなきゃいい。もっと大事なものがある、それはタイヤとの一体感! その3【清水×高平のエンジンどうでしょう】
市販車とレーシングカーのエンジンの違い。ハイブリッドになったらどこに魂を入れるのか…。V12はオーケストラのシンフォニー! そんな話がどんどん出てくる清水和夫×高平高輝クロストーク。今回はメインテーマから大きく外れて違う話でも盛り上がっちゃって…。では続きをドーゾ! TALK:清水和夫(Kazuo SHIMIZU)、高平高輝(Koki TAKAHIRA)/PHOTO:清水和夫、レーシングオン誌、オートスポーツ誌、GENROQ web、web option、Motor-Fan TECH、大橋俊哉(Toshiya OHASHI)/ASSIST:永光やすの(Yasuno NAGAMITSU) ジャーナリストでレーシングドライバー、ラリーストでもある清水和夫のぶっちゃけ話も 【清水×高平のエンジンどうでしょう】をもっと読む そもそも「エンジンについて」のテーマが悪かった!? 自動車業界を取り巻くいろいろなものへの知識が豊富過ぎて話はあっちゃこっちゃに飛び出ていく。ま、清水和夫さんと高平高輝さん、ふたりの話はソコが面白くて勉強にもなる。なんと今回は、ほとんどエンジンの話ではないのだ。 エンジンサウンド? そんなもん聞いちゃいない! 高平:和夫さんはレーシングドライバーとして、あるいは今はラリードライバーとして速さを求める、とにかくタイムを求める、強さを求める人にしては、V12の華麗なシンフォニーとかっていうことを言える数少ないジャーナリストでもあり。 清水:アイルトン・セナがどう思ったかわからないけど、戦っている時はエンジンのシンフォニーなんて関係ないっていうか、そこじゃなくて、タイヤと路面のところのほうが100万倍大事。 高平:ソレとコレはまったく違う人間が発言してるということね。そうだよね。別にレーシングドライバーにとっては、気筒数どころか回転数とかそんなのもまったく関係ないわけでしょ? 清水:全日本ラリー選手権には、前(2021~2022年)は3気筒のヤリスCVTで、今(2023~2024年)はヤリスHEVでやっているけど、GT選手権(現:スーパーGT)のGT-R(BNR32)の時は6気筒、フォード・シエラ コスワースは4気筒ターボだったけど、エンジンは壊れなければいい。エンジンが気持ちイイとか関係ない。気持ちいいかどうかっていうのは、タイヤと路面との関係がきちっとわかって、理屈になって、それができている時は楽しい。 清水:今年、唐津のラリー(ツール・ド・九州2024 in 唐津)で発見したものは、九州と四国、本州とで舗装が違うっていうこと。唐津は路面が粗いんだよ。タイヤメーカーは路面をクローズアップした写真を持っていて、見せてもらったらデコボコしている。デコボコしているから、タイヤは硬い方がいい。ウェットだったらみんなソフトって言うんだけど、もう経験的に唐津はウェットでも固いタイヤでいけるって、何年も出ている人たちは経験でデータを持っている。 オレは、それは理屈で「なんで?」って聞いたら、表面がデコボコしているからだと。つまり、せん断力なんだよ。タイヤのグリップっていうのはせん断力と粘着力(=アドヒージョン)とふたつあって、九州のウェットはせん断力。だから硬いタイヤをチョイスした方がいい。ホ~っと思って実際、硬いタイヤをチョイスすると、濡れているんだけど、ここは路面が硬いはずだと思って切ると、ちゃんとキロ1秒ぐらい速くなる。そういうのがわかってくるんだよね。九州・唐津はアスファルトの粒が大きいって。 清水:ウチのお袋がお茶をやっているんだけど、「お茶碗は一に唐津、二に萩」って言う。なぜかって言ったら、唐津の砂が一番いい、千利休は一番いいお茶碗だと(※『一楽二萩三唐津』とも言う。楽焼[京都]/萩焼[萩市]/唐津焼[唐津市])。お茶をたてると茶碗の下に汗をかく。(土・砂/素材が)荒いから水蒸気、水分が下に浸透してくる。だからお袋にとっては唐津の茶碗が一番、二番目が萩焼き、備前焼はダメ。 そういう砂の成分によってタイヤのグリップが全然違うっていうのがわかった。 ダートではタイヤは粘着力ではなく「せん断力」! 清水:今回、全日本ラリー選手権2024のグラベル2戦(第6戦 ARKラリーカムイ=クラス2位/第7戦 RALLY HOKKAIDO=クラス5位)を何年ぶりかで出たんだけど、砂利の本格的なグラベルラリーは40年ぶりくらい! 最初はすっごい轍だから走り方がわからない。40年前のレオーネの時代の記憶が出てこない。コ・ドライバーの山本磨美ちゃんと「どうしよう、どうしよう…」って、でも走る度にちょっとずつ記憶が出てきて。 タイヤ屋さんのダンロップに聞いたら、「ラリータイヤはせん断抵抗だから、アドヒージョン(粘着力)ではないので、思っている以上にステアリングを切っちゃった方がいい。ブロックの横剛性を強くしているから、せん断力でクリップが出る」と。 そうか!と思って。それで、土曜日の午後から日曜日の午前中にかけて、チョイ切りしていたものを、入り口では怖いけど多めに切るようにした。そうしたらヒャン!とノーズが入る。これだ!と思った。もう思い切って行こう!と。 DAY2最後のSS12(12.31km)では、90度コーナーをヘヤピンぐらいのつもりでグワッ!って切っていくと、ガーン!って曲がる。カルーセル(回転台等)に入ったようにチャン!って。それで、最後キレッキレの走りができて、それまで3位だったのが24秒差で逆転し、クラス2位になった。 高平:あれ~どうしたんだろう?と思って見ていた。最後、なんかズルでもしたのかな?(笑)って、突然最後だけメチャメチャ速いから。和夫さんのヤリスHEVはパワーがない上に、結構路面が掘れている後の方の出走だから、砂利だけでもメチャメチャ走行抵抗になっているんじゃないかと。ヤリスみたいな小さいクルマだと、前を走る四駆(※ハイラックスやトライトン、エクリプスなどが走るARKラリーと併催)がガーって上げていった砂利をかき分けながら走らなくちゃいけないみたいな。 清水:亀のコになっていたよ。最初は怖いから、フロントが轍から外れると飛び出しちゃうから、轍の中にスポーンって入っていた。すると、走行抵抗になって出てこられないぐらい遅かった。それをターンインで轍の7合目くらいのところにタイヤを乗せて加速して、ターンインするような感じで走った。そういうことがわかってくると、理屈とフィジカル、リアルでわかるともう負ける気がしなくなるわけ。 ニュルブルクリンクもそう。1周走っても、ウェットなどでグリップの低いところとドライでグリップの高いところが何ヵ所も出てくる。それはもう5000LAP以上も走っているからわかっている。だから、タイヤと路面とのメカニズムの世界を知れば知るほど、感覚じゃなくて理屈でもセットで分かると面白い。カムイでプッシュできたのは、理屈がわかったから。 清水:2024年F1第12戦イギリスGP シルバーストーンもウェットで、まぁ~ハミルトンとかフェルスタッペン、みんな速かった。ちょい濡れと乾いているところと、非常にややこしいレースだった。多分F1ドライバーは、全神経をタイヤと路面とのコンタクトに集中して走っているよね。 高平:それを普通の人はどうやって感じられるようになるんですかね。 清水:手応えとかって言っているけど、手応えなんかもう感じてないしね。 この前、プロのバスケット選手の話を人伝で聞いたんだけど、ペナルティの時にシュートするじゃない、あれはリングを見て投げる。だけど、スリーポイントは“空中に通り道”が見えているんだって。リングを見ていなくて、見えている“通り道”に通せば入るって。 高平:ゴルフもプロや上級者は、カップの手前にそのポイントが見えるとか、アソコを通れば入るみたいなものが見える時があるんだ、みたいな。 清水:バスケットのスリーポイントは、遠く離れたところにリングがあって、空中に仮想の通り道の輪っかがあると思って、そこを投げれば自動的に放物線でそこに行く。 高平:説明するのが難しいんだけど、そういう感覚センサーを持っている人と、頭の中での知識、理論構築が結び付いた時は、無敵のゾーンに入れるんだろうね。 清水:そうそう、理屈と右脳と左脳がガチって噛むと絶対的に自信になるから、プレッシャーはあるんだけど、それをはねのけることができる。 ダウンサイジングの時代は終わったのか? MF:話は大きく元に戻って、V12と直3があればいいっていう話。ここ15年ぐらいはダウンサイジングの時代だったから、V8 NAがV6ターボになり、V6が直4ターボになり、直4が直3ターボになり…みたいな。でも、もうそれは終わったんですか…? 清水:ユーロ7の排ガス規制がどう変わるかでHC(炭化水素)やCO(一酸化炭素)の規制が厳しくなる。そうするとモードで走っている以外のところのガソリン冷却ができなくなるので、λ=1(ラムダワン/燃料1gに対し空気14.7gの比率。理論空燃比での酸素量がこれより燃料が濃いとλ=0.99以下、燃料が薄いとλ=1.01以上[Motor-Fan TECHより])と言われているストイキオメトリー(理論空燃比)で燃焼させるしかない。過給はもう上げられないから、ロープレッシャーターボになっちゃうと。すると上の出力が得られないから、排気量を上げるしかない。 MF:フォルクスワーゲン・ゴルフがマイナーチェンジして、日本だと3気筒がなくなった。ヨーロッパにはまだあるんですか? 清水:多分トヨタ曰く、3気筒は中国でまったく売れないから4気筒にしている。でも3気筒の方が燃費と出力が得られるからトヨタは残す。中国だけ1.5L 4気筒にして、それ以外の国は3気筒のロングストロークの縦渦タンブルの高速燃焼は続ける。 ヤリスの3気筒はヨーロッパでも残る。だって燃費いいんだもん。燃費と出力両方が得られるから。 MF:中国人は3気筒っていうものが嫌…? 清水:中国は「3」って聞いただけでダメ。 ―:中国人は「8」が好きだからV8! 高平:V8も大好き。 清水:マツダがどうなるかだよね。今度CX-80が6発(4発のPHEVもあるが)だけでくるでしょ。CX-60がいろいろと初期トラブルがあったけど、60ベースでロングホールベースの3列シートもあり。 高平:日本ではもうやめるはずだったCX-5の方が全然売れているっていう逆転現象になっているので。 清水:このラージ群はC-X60、70、80、90とグローバルにはフルラインアップ。おそらく日本生産だから円安頼りだよね。 水素推しのヨーロッパ、でもポルシェはe-フューエルへいく? 清水:ル・マン2024の取材に行った石井昌通クン(ボンちゃん/自動車ジャーナリスト)の話では、フランスはもう水素エンジンにしようぐらいのことで、2027年くらいのル・マンは、LMP-1は水素エンジンでいいんじゃないか?みたいな。水素は液体でマイナス253度。トヨタがスーパー耐久で水素燃料エンジンをやっているのでトヨタが技術を全部出す…と、トヨタとフランスの間では言っている。 パリオリンピック2024ではMIRAIを300台ぐらい提供して、MIRAIで1500Wの電気を作ってたこ焼き…じゃなくてフランスだからクレープを焼いて提供する、みたいな。だから今、フランスは水素ブームが起きそうな感じ。ハイラックスの水素も発表して、オリンピックで大々的に出していましたね。 先日PEC(Porsche Experience Center Tokyo)に行ったらモータースポーツもやっていた責任者がいてそんな話をしていたら、「ポルシェは絶対にあり得ない。e-fuel(合成燃料)だ」って。ドイツはずっとe-フューエルをやっているから、2027年ぐらいのル・マンはF1と同じe-フューエルで行くと。 高平:意外にドラスティックな導入をするかもしれないですね。その辺はちょっとわかんない。一方で、WRCはハイブリッドを止めちゃうんですよ、始めたばっかりなのに。 清水:そう、e-フューエルにする。 高平:この間のWRC2024ポーランド(第7戦)では、ハイブリッドシステムを取っ払ったフォードのプーマ(Ford Puma Rally1/M-Sport Ford WRT)に乗って、マルティン(Sesks Mārtiņš)選手っていう初めてラリー1車両に乗った人が一時トップに立ったぐらいめちゃめちゃ速くて。 MF:それは軽いから、ということで? 高平:いや、バラストを積む。他と一緒にしないといけないから。バラストは積むんだけど、モーター駆動がない。モーター駆動なんて小さなバッテリーだから、一瞬だけでハナから全然!っていう感じ。WRCは建前でハイブリッドにしたんですけど、それをもう止めちゃえと。現実的なんだか理想論が通っているのかわからないけど、モータースポーツの世界のレギュレーションも今、ブレブレです。 MF:そうすると、WRCに参加するワークスが増えるかもしれない…っていうことですか? 高平:そうですね。 清水:ハイブリッドじゃなかったら、SUBARUだってエントリーできるよね。 高平:今、電子制御は結構厳しく制限されているので、エンジンさえあればマシンは作れる。最終的に速ければ勝ち、という。 V12でも直3HEVでも走っちゃえばみんな同じ♪ 清水:フォーミュラEのドライバーも同じように楽しんでいると思うけど。実際問題、インカムしていたらエンジン音なんて聞こえない、ラリーは特に。別にEVでラリーをやっても同じだと思う。楽しいのはハンドリングの方。 高平:そんなこと言ってね、多分、アウディ・スポーツクワトロS1やポルシェ911ダカール(PORSCHE 911Dakar)のラリーカーみたいなのに乗って走ったら「最高だ~!!!」って言うと思うんですよね。 清水:でも、ダカールはちょっと着せ替え人形っぽくて、アレ3000万円の価値はない。ただゲジゲジタイヤ(※ラリー用タイヤ)が入っているだけで。グループBのポルシェ959を知っているから、それのイメージでダカールに乗っちゃった。 高平:1970年代の昔のラリーを経験して、それを通ってきた人が今、「和夫さん、3気筒のヤリスHEVでラリー出て面白いですか?」って。 清水:よく言われるよ。でもね、エンジンなんて関係ない。 高平:プロサングエのV12に乗って「V12最高だ~!」って言っているのと、ヤリスHEVに乗っても「凄く楽し~♪」と思っているのが同じ人。同じ人間の中に矛盾なく並列できるということを、経験していない人にはなかなかわかってもらえないと思う。V12はもちろん夢のエンジンかもしれないけど、でもそれだけですべてがOKになるものでもない。 グループAのM3 (BMW)、ありゃ最高だよ! 清水:でもね、グループA(全日本ツーリングカー選手権[JTC])で言えば、最初のBMW・M3。オレはシエラ・コスワース(※1988年後半~1990年前半まで「ピューミニ・トランピオ・シエラ」に乗っていた)だったから痛いほどM3の存在が気になっていた。シエラとM3ではクラスは違うんだけど、コッチがタイヤと自分がヘコたれるとシュニッツァー軍団が真後ろにいる。スズメバチに追いかけられるような感じで最後は飲み込まれる。 ある時にそのグループAのM3、2.5Lの4気筒に乗ったんだけど、ハンドルがカミソリ! コーナーをシュパーン!ってカミソリで切るようなコーナリング。凶器だな!と思うくらいハンドル切ったらスパーン!って、最終コーナーなんか慣れたら1段上のギヤで回れるからね。 コッチのシエラ・コスワースRS500は2WDでパワステなしだから、1時間ぐらい乗っているとヘコたれるわけ。で、エッゲンバーガー・モータースポーツ(スイスのチューナー)がチューンしたシエラ・コスワースのワークスからバックミラーを見ると、ブーンってススメバチみたいなM3が軍団で来るわけ。M3はクラス2なのにトップ争いしちゃう。それくらいM3っていうのはすごいグループAマシンだった。 BMWのステアリングには魂がある! 清水:ボクは、BMWはステアリングに駆け抜ける喜びがあるんじゃないかなと、ずっと思っている。 エンジンは“シルキーシックス(直6)”なんて言っても4気筒もあるし、その2.5Lのエボリューションモデルのエンジンを知っていたから、BMWはステアリングに魂だな、と。 高平:それはただ単に切れ味がピッて反応する…ということではない、ということを伝えないと。過敏になればいいわけじゃない。最初のゲインが高いだけじゃなく、本当にこう切れるみたいな感じ。すーっと定規をあてなくても思う通りに切れる、みたいな感じ。 MF:メルセデス・ベンツはそうじゃないと? 清水:190エボ(メルセデス・ベンツ190E 2.5-16エボリューション)はちょっと違うんだな。 高平:元々、メルセデスの市販車はカミソリなステアリングという感じではなくて、独特なフィロソフィっていうか、サスペンション・フィロソフィがあったんですけど、それがレーシングカーになってもちょっと違う。 清水:最初の4気筒 2.5LのM3が、私にとっての“ベストM3”。“ベスト・ハンドリングカー”っていうかね。リヤエンジン、ミッドシップで運動性が良くなるのは当たり前で、フロントエンジンであそこまで意のままに走れるクルマっていうのはBMWだけ。 高平:清水和夫が運転する後輪駆動のBMW、そのサーキット走行に同乗するとちょっとビックリしますよ! 最初はちょっと怖い。「え? ドコ走るんだこのオヤジ!?」っていうくらい自由自在に走るから。「そんなに縁石踏もうとしたらガン!と来るじゃん」って言ったら、「縁石からちょっと浮くくらいで入るからショックがこない」って。「え、今どこ走ったの?」って、完全に縁石踏んだハズなのにガンと衝撃がこない。 清水:それはBMWの足だから。 高平:M3とかM5で、スペインでやった試乗会で和夫さんの横に乗ったことがあるんだけど、その頃グループAから始まったバリバリのスカイラインなどの“インリフト王”の時代だから、「こういう人がこういうクルマをサーキットで乗ると、こういう走り方をするんだ」ってビックリする。そんなに切るの?っていう時もあれば、ちょっと切っただけでガーっと回り込む時もあって、勉強になる。そうすると、切れ味っていうのは、単純な最初のゲインのピークの高さだけじゃなくて、それからどれだけ回り込む性能を、自信を持って走らせているから。 清水:グループAで長谷見昌弘さんはアンダーステアを嫌うセッティングで“オーバーステア大好きハセミチャン”だったんだけど、星野一義さんは「アンダーだアンダーだ」!って32GT-Rに文句言うんだけど、乗っちゃうんだよね。星野さんって外側のタイヤでクリップを取る。クリッピングポイントは外側のタイヤなのよ。それを仙台ハイランドレースウェイ(※今は無き…)の裏のシケインで見て、「マジか!?」みたいな。 高平:昔、若いカメラマンが狙っていたら、思っていたよりも1台分中寄りだったと。 清水:星野さんは感覚的にわかっているんだよね、縁石カットの仕方が。オレはレオーネ(全日本ラリー選手権)の時にSSではアンダーで曲がんないから、熊笹の中に半分クルマを入れてアウト側のタイヤでクリップ取るように砂利道を走っていた。そこにカメラマンがいつもいるから、「ソコ、オレが通るんだから危ない、あんまりイン側に入ってくんなよ!」って何度も言ったことがある(笑)。レオーネだけはちょっと違うラインで入っていかないと、アンダーでどっかに飛んでいっちゃう。 だからある意味、エンジンじゃないんだよ、究極の話っていうのは。 エンジンの向こう側に何があるか… 高平:今日はエンジンの話なのに、エンジンじゃない!と。 清水:ドライバーが見ているところはエンジンじゃなくて、まぁビヨンドエンジンみたいな、“エンジンの向こう側に何があるか”。エンジンの力によって得られたスピードを、どうやって豪速球のピッチャーの球をキャッチャーが受け止めるか、みたいな話に近いね、タイヤは。 高平:エンジンは音とか振動とか、実際のパワーがあるしデータがあるから伝えやすいかもしれないけど、これがプラットフォームとかシャシー、フレーム、タイヤの話になると、さらに難しくなるかも。 清水:タイヤの話は別の機会、プラットフォームの話になる。 高平:摩擦円の話を始めたら、それだけで1時間くらいはいけますよ! 未来に見えるのは水素かe-フューエルか? MF:今回のエンジンの話を大まかにまとめると、市販車のV12というのは芸術品。でもエンジンに速さを求めるのだったら、V8やV6。だけど、なんで人はV12に憧れるのか?というと、芸術品だから。 清水:嗜好品だから。輪島塗りみたいなもんだね。 高平:昔、ザルツブルク(オーストリア)の夏の音楽祭に行って、ガラコンサートでオペラを聞いた。「オペラなんかわからないだろう…」と思いつつも、でも凄く面白くて本当に感激したことがあるんですよ。やっぱり本物を近くで観ないとわからないんだなと。 終わってからみんなで酒場とレストランに行き、夜を徹して「今日のアレはどうだったこうだった」っていう話で盛り上がる。その口プロレスがまた楽しい。 クルマ好きもそういうのとちょっと通じるところがある。トヨタはどうだ、ポルシェがどうだ、勝てなかった、フェアじゃない…とか言っているうちに、水素燃料エンジンになっちゃうぞ! 清水:秋にトヨタの佐藤恒治CEOがドイツで、BMWと一緒になにか大きい発表をするらしい。多分、水素領域でいろいろ多角的に、燃料電池と燃焼と両方含めて。 高平:水素のあらゆるものに、まだちょっと課題となる部分はあるんですけど、でも、ドイツ勢はどこもやっていると思います。言わないだけ。「水素なんかに未来はない!」って言っているポルシェですら多分、絶対やっている。アメリカ人も。我々の経験上、何も言わない時ほど絶対やっている。でも日本メーカーは大体、正直だからどこかで漏れて表に出ちゃう。 MF:カワサキもバイク用をやっているとか。 高平:川崎重工グループでね、あそこは水素推しなので。川崎はスーパー耐久用の水素を持ってくる。船を持っているし、採取するところに投資もしているし。 清水:今ヨーロッパで“ホワイト水素”っていうのが出てきた。実は土の中に水素がある、微生物が作っているっていうのがわかって、それがもう無尽蔵にあると。それがホワイト水素。他にはグリーン水素、ブルー水素…いろんな水素に色の名が付いているんだけど、地中の水素は無尽蔵にあるから、もういちいちいろんなことをやらなくても、水素をそのまんま持ってこられる。で、そのまま水素を圧縮するか、液水化するか、マイナス253度にするか、あるいは水素を使ってCO₂にかまして合成燃料を作るかっていうやり方。 水素の利活用のなかにふたつの道があって、水素を直接燃やすやり方と、e-フューエルでいく。それがフランスは多分、水素になるのだろうと。ドイツはe-フューエルになるのだろうと。 トヨタは今、液水だから、川崎重工が岩谷産業と一緒に魔法瓶を作ってくれている。液体水素にするとエネルギー密度が800倍あるので凄い。それをカートリッジでやればいいんじゃないか?みたいな話。 ポルシェアも「ウチは今、南アメリカでちゃんとe-フューエルやっているんだから。ドイツはe-フューエル派で、F1もやるしWRCもやるし」っていう流れ。FIAはe-フューエルで、ル・マンの方が水素寄りとか。2027年くらいからだから、あと2~3年後くらい。 水素先進国・アイスランドを20年前から注目している清水和夫 高平:和夫さんがアイスランドとか行っていたのは20年ぐらい前? 清水:アイスランドは地熱発電だから、無尽蔵に電気が作れちゃう。で、水が豊富。それをアルミ工場はボーキサイト(アルミニウムの鉱石)で電気を作るでしょ。だから、アルミ工場を作って。水素があれば、ノルウェーもそうなんだけど、フィールドから流れてくる水力発電で再生可能な電気がいっぱいある。ただ、電気は大陸に送れなかったので、水素にすれば送れる。 高平:そういうことを和夫さんは20年前の本で書いているんだけど、それをもう1回“教科書”にしてもいいくらい。時代が進みすぎていたし、NHKとかで取り上げても、みんなすぐ忘れちゃう。 アイスランドって、空港のすぐ横にアルコア(アメリカのアルミニウム製造会社)の超巨大なアルミ工場があって、電気も水も全て無料の国なんですよ。 清水:人口30万人ぐらいで(※38万7758人[アイスランド統計局2023年1月])、無尽蔵に電気と水がある。水と電気があれば水素が作れるし。その水素を海を越えてパイプラインで送っちゃう計画がある。それはようやく今、そのパイプラインに水素を入れるやり方が出てきて、モロッコ、北アフリカの砂漠で膨大な太陽発電と風力で電気を作り、地中海の下にパイプラインを引き、そこに水素を流してスペインとフランスから大陸に水素を送り込むっていうプロジェクトがもう動いていて、日本の商社もだいぶ投資している。 高平:清水和夫はベタベタに砂利道走ってるだけじゃない!(笑) オレもアイスランド行ってびっくりした。その後アイスランドの国自体がいい気になって投資を受けまくって、一回国家破綻しちゃったので、それでヒュ~ってなったこともあるんですけどね。アイスランドとかノルウェーで作るっていうのは、確かにヨーロッパにとってはめちゃめちゃ現実的なことだよなっていう。 清水:ノルウェーっていうのはヴァイキング(Viking/武装船団)の国で、盗賊をアイスランドに閉じ込めたので、アイスランドの住民というのは昔の罪人なのね。ニュージーランドと一緒。オーストラリアの罪人がニュージーランドに島流しになっている。だから“柿本人麻呂”と一緒で(※諸説あり!)。ま、そのエネルギーの話はまた今度別の機会に。 【エンジンどうでしょう】をざっくりまとめると… 高平:今日のエンジンの話はいくつかポイントがあり、V12はオーケストラを楽しむみたいな。でも、本当の運転手はオーケストラのシンフォニーとか一切関係ないっていうか。それよりも、タイヤとのコンタクトの方が大事。このリアリズムもいいよね。プロサングエに乗って感激しているクセに、3気筒のヤリスHEVの方が大事って言っているっていう。だから V12じゃなくちゃダメだとか、3気筒はつまらないとか、時と場合によってそんなことは全然関係ない。 清水:芸術性を除けばエンジンなんかもうなんでもいいんだよ、燃料電池だろうがバッテリーだろうが、スピードさえ出さしてくればガスタービンだろうがなんでもいい! 【清水和夫プロフィール】 1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、N1耐久や全日本ツーリングカー選手権、ル・マン、スパ24時間など国内外のレースに参戦する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。自身のYouTubeチャンネル「StartYourEnginesX」では試乗他、様々な発信をしている。2024年も引き続き全日本ラリー選手権JN-6クラスに「SYE YARIS HEV」にて参戦。 【高平高輝プロフィール】 大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させていただきました。1980年代末から2000年ぐらいの間はWRCを取材していたので、世界の僻地はだいたい走ったことあり。コロナ禍直前にはオランダから北京まで旧いボルボでシルクロードの天山南路を辿りました。西欧からイラン、トルクメニスタン、ウズベク、キルギス、そして中国カシュガルへ、個人では入国すら難しい地域の道を自分で走ると、北京や上海のモーターショー会場では見えないことも見えてきます。モータージャーナリスト清水和夫さんをサーキットとフェアウェイ上で抜くのが見果てぬ野望。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 今回の清水和夫さんと高平高輝さんによるクロストーク【エンジンどうでしょう】はいかがだったでしょうか。エンジンをメインテーマに、V12をはじめとした多気筒エンジン、ハイブリッド、燃料の話からタイヤ、ラリー、レースの話まで飛び出した今回。 個人的には「RB26DETTは芸術性じゃなくて“武器”! WEAPON!!」に笑いました…実感として! ではまた後日、テーマは自由に決めていただき、ふたりにクロストークをしていただこう。リクエストはある?
清水和夫
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