米利下げが現実味 でも円高は進まない?
米国の利下げが取りざたされる中、利下げされた場合には円高が進むのでしょうか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストの解説です。
円買い圧力跳ね返す策が残っていない日銀
米国の政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利は2018年12月まで段階的に引き上げられてきましたが、昨年末に株式市場が下落したことなどから、今年に入って利上げは休止されています。足もとでは米中貿易戦争に伴う景気の先行き不透明感に加え、トランプ大統領が米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを要求していることもあり、市場のテーマは利下げ時期に移りつつあります。金利先物から逆算した年内の利下げ確率は8割弱と高水準にあり、年内利下げが現実味を帯びていることが分かります。そこで本稿では米国の利下げがドル円の為替レートに与える影響を考えてみたいと思います。 仮に年内の利下げが現実となった場合、ドル円レートには円高圧力がかかるでしょう。過去数年、逆を向いていた日米の金融政策のベクトルが同じ方向を向くならば、日銀が大胆な緩和策を講じない限り、円買いが優勢になると考えられますが、周知の通り日銀に残された策は少なく、円買い圧力を跳ね返す力はありません。
かつてとは違う「低金利アライアンス」
もっとも、円高圧力は過去の同様の局面に比べて弱まっていると考えられます。2007年9月に始まった米国の利下げ局面はスタート時のFF金利が5.25%と高く、わずか半年後の08年4月には2.25%へと3%も低下したのに対して、今回のスタート地点は2.50%(FF金利上限、追加利上げ無しと仮定)ですから、日米金利差の縮小度合いは限定的です。2006~07年ごろは5%程度の日米金利差を背景に両国の金利差に着目した投資(キャリートレード)が全盛の時代であったことから、その分、巻き戻しの規模も大きかったのですが、今回はそうした状況にありません。 また世界的に低金利通貨が増えたことも大きいと考えられます。当時は円が唯一の低金利通貨であったため、世界的に金利が低下すると円に買いが集中するという事情があり、リスク回避の局面では条件反射的な円高が観察されました。当時は通貨ユーロの翌日物金利が4.25%と高水準にあったほか、高金利通貨の代表格である豪ドルに至っては7.25%と豊富なキャリー収益が獲得できる環境にあったため、「リスクオフ→円高」がある種のセオリーとして広く共有されました。 一方で今回の局面においてはゼロ近傍ないしはマイナス金利の通貨が多くあり、ドルを除く多くの先進国通貨が金利を持ちません。こうした「低金利アライアンス」の拡大は、低金利通貨(または安全資産)としての円の特異性を薄め、円高をマイルドにすると考えられます。
---------------------- ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。