紅白初出場「Creepy Nuts」はなぜ、バラエティ番組でも活躍できたのか
普通の内気な青年
トーク番組の「あちこちオードリー」(テレビ東京)に初めて出たとき、Creepy Nutsはバラエティ番組に出始めた時期だった。DJ松永は、気心の知れたオードリーを前にしてテレビの仕事への不平不満をぶちまけた。そんな彼に対してオードリーの若林正恭は「テレビの仕事増えちゃうぞ」と言った。その後、若林の言葉通り、彼らのテレビ出演は大幅に増えていった。 レギュラー番組を獲得しただけでなく、ゲストとしてバラエティ番組に呼ばれる機会も激増。さらに、「情熱大陸」(MBS・TBS系)に取り上げられたり、R-指定が「人志松本のすべらない話」(フジテレビ系)に出演したり、テレビのさまざまな分野に進出していった。 DJ松永がテレビで話しているのを聞くと、良くも悪くも「タレントらしさがなく、普通の人みたいだな」と思う。そこら辺を歩いている普通の内気な青年が、いきなりテレビに引っ張り出されたときに思うようなことを率直に語っている。それがドキュメンタリーとして新鮮で面白い。 テレビというのは、徹頭徹尾作り物でありながら、そこに生々しさも求められるという矛盾がある。テレビのフレーム内に映るすべてのものは、制作者の意図によって作り込まれたものであり、出演者も制作の意図に従って動く操り人形のようなものだ。しかし、出演者が話す内容や出演者の存在感そのものには生っぽさがないと面白くならない。 テレビタレントとして生きると決めているプロの立ちふるまいは、どうしても一定の枠の中に収まったものになりがちだ。だからこそ、テレビは常に外部に新しい才能を求める。学者、ミュージシャン、アーティスト、モデルなど、別の分野の専門家がテレビの空間に引っ張り出されてくる。そして、テレビ的ではない生のリアクションをする。それが予定調和を崩してテレビを面白くしてくれる。 2023年3月に彼らがレギュラー出演していたラジオ番組「Creepy Nutsのオールナイトニッポン」が終了した。その際、彼らは音楽に費やす時間を増やすために番組を終了させるのだと語っていた。彼らのテレビ出演が減っていったのも、本業に集中するためだという思いがあったのかもしれない。 バラエティの世界でも活躍していたCreepy Nutsが、今年は「紅白」の大舞台でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみだ。 ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部
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