感動を呼ぶ斬新な懐石料理! 日本料理界に飛び級で現れた期待の大型新人が描く展望に迫る
試作はしない、頭の中で完成させる自分色の料理
本田:自分で全部やるようになったのは箱根の後? 藤井:神楽坂の店からですね。お品書きは修業を始めた時から毎月分書いていたんです。ストックはあったので、それをうまく店に合わせながらメニュー作りをしました。
本田:全部自分でメニューを作るとなると、なかなか難しいでしょ? 藤井:神楽坂の時は、一緒に働いてくれる料理人さんが多くて、しかも、皆さん、30、40代の方ばかりでした。お品書きやレシピ作りよりも、人に伝えることが苦手で。自分の思っていることや、こういうふうにして欲しいとうまく伝えることができなくて。それで「有涯」は小さい店にしてもらって、極力、最初から最後まで一人でできるようにしています。 本田:一人でやるのは大変じゃない? 藤井:僕は誰かと一緒にやる方が大変。 本田:向き不向きが早めにわかるのも大事だね。無理して人を雇ってトラブルになって、やりたくなくなっちゃうのもつらいかな。最初から6席ぐらいでできれば、ベストはベスト。昔は、こういう小さな店ってあんまり成り立たなかった。今は、カウンター席で高価格の店が成り立つようになったから、一人が向いている人は、人を雇わないで店ができるようになった。でも、一人だと休めないでしょ? 藤井:休みの日には仕込みをしたり、店で使う米も御殿場で育てているので、週1でその作業をしたりしています。 本田:それもなかなか大変だね。 藤井:でも、米作りは料理とは全然、違うので楽しいです。
本田:料理を作る時のアイデアはどうしているの? 本を見ながらお菓子を勉強したって言っていたけど、料理も同じように? 修業先で教えてもらった料理もあるかも知れないけど、それだけじゃ全然足りないでしょ。
藤井:ここでは修業先の親父さんに教えてもらった料理はやらないでおこうというのが僕の中にあります。親父さんが来た時に、真似したって思われるのがそもそも嫌なのと、せっかく「有涯」に来ていただいたなら、自分色の料理を食べていただきたいと思っていて。 本田:クリエーションはどうしている? 藤井:おいしくなればいいなと。これとこれを合わせたらとか、こういうふうな食感にしたら面白いかなという感じで考えています。 本田:アイデアを得るためにいろいろなところに食べに行ったりしない? 何も見ないで自分で考えるの? 藤井:先輩たちのお店に通わせていただくのは、どちらかというと空間の勉強のためです。僕が弱いところは、店としてどういう空間を作っていけるかだと思うので。料理に関しては、ほとんどパッと思いついたものを作っています。他の店と被ったり、真似をしたりしたと思われるのがすごく嫌なんです。そうは言っても、だしの引き方のように真似しているところは多分あるとは思います。けれど、クリエイティブな部分に関しては、自分が考え出したものをやりたいと思っています。 本田:それって大変じゃない? パッと思いついても全く合わないこともあるじゃない。すごく試作する? 藤井:料理の試作はしないんです。 本田:え? 藤井:今まで1回もしたことなくて。基本的にこれを作りたいというのが自分の中で決まっているので、それを変えることはそうそうありません。そこまでクリエイティブじゃなくて、結構シンプルなんです。例えば、焼きナスのアイスクリームだと、暑い時期に冷たい焼きなすを出したいな、というところからアイスクリームにしたら面白いだろうな、みたいな考えで料理は作っています。なので、試作はそんなにしません。