自分の過去が暴かれるかもしれない恐怖を描くスリラー「ディスクレーマー 夏の沈黙」
アルフォンソ・キュアロン監督が初めてドラマシリーズ全編でメガホンをとった最新作「ディスクレーマー 夏の沈黙」が、AppleTV+にて配信中だ。 【写真】キャサリン(ケイト・ブランシェット)の若年期を演じ、魂の宿った演技で強い印象を残したレイラ・ジョージ。 「ディスクレーマー 夏の沈黙」の一場面 仕事で成功したジャーナリスト、キャサリンを「キャロル」、「TAR ター」のケイト・ブランシェットが演じ、とある作家不明の小説が届いたことにより彼女の人生が狂っていく様子を描いたシリーズだ。
ケイト・ブランシェット、ケビン・クラインら実力派俳優たちの競演
キャサリンには良きパートナーであるロバート(サシャ・バロン・コーエン)と息子ニコラス(コディ・スミット=マクフィー)がいるが、ニコラスとの関係はギクシャクしている。そして、そんなキャサリンを〝息子ジョナサンの死にかかわった人間〟として憎悪をあらわにする夫婦スティーブン(ケビン・クライン)とナンシー(レスリー・マンビル)が現れる。キャサリンの心は、ふたりの登場によって追い詰められていくのだ。 キャサリンの家族とスティーブンの家族、それぞれの家族の現在と過去という四つの物語が同時に並行した状態で語りかけてくる今作のストーリーテリングは、まるでそれぞれの物語が一本一本の糸として複雑に絡み合い、ひとつの布や服になっていく編み物のように思える。 現実における人間関係もまた同じ。我々には巻き戻せない過去があり、過去の影響を受けて生じた現在の行動や心情の変化があり、そしてそのような過去・現在が他人にも同じように存在する。それぞれがバタフライエフェクトのような影響を与え合って複雑に構築されていくのが我々の人生、我々の世界だ。 そうしていくつかの人生が複雑に絡まり合った物語は我々にとっても一見複雑でありながら、今作を見ていると意外なほどわかりやすく、自然とのみ込めるようになっている。これはひとえにキュアロン監督の物語の構成、伝え方が巧みだからにほかならない。 たとえば甘美で罪深い回顧録のような雰囲気で書かれた〝謎の小説〟パートの映像からは、あからさまなトランジションエフェクトによって無機質な現実に戻ってくるのが今作のお決まり。そのエフェクトが挟まることで小説のフィクション性が強調され、メリハリがついている。