固唾をのんで見守るウクライナ、ロシア、イスラエル、イラン――米大統領選「トラorハリ」でふたつの戦争はどうなる!?
■イランの核武装は避けようがない? では、今後のイスラエル軍の動きは? 元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見 龍氏(元陸将補)はこう予測する。 「イスラエルの広さは日本の四国と同程度で、国内に防御地形的縦深がないので、絶対に本土侵攻されないよう、自国外に戦場を求めるのが基本戦略です。対ヒズボラ戦では、国境から30㎞ほどの距離にあるレバノン南部のリタニ川までの進撃を当面の目標とし、岐阜県程度の大きさの地域に防衛線を展開するでしょう。 すでにヒズボラの主要幹部は軒並み殺害されており、統制のとれた組織戦闘はできませんから、この地域の制圧はガザ地区より早く、数ヵ月で達成可能とみています。その後は、この〝緩衝地帯〟を保持する作戦へと移ります」 また、現在焦点となっているイランの核関連施設への攻撃についても、イスラエルの国土の狭さが大きなポイントになっていると二見氏は言う。 「イスラエルは核ミサイルを数十発食らえば国が消滅します。一方、日本の約4倍の国土面積を誇るイランは、核攻撃を受けても壊滅には至らない。この両国の間では、双方が核兵器を持ったときに抑止が均衡しないのです。だからイスラエルは、なんとしてもイランの核武装化を阻止したいわけです。 実際にイランの核関連施設を攻撃する際は、イラン上空で航空作戦を展開する必要があり、米軍機の支援の下で行なわれるでしょう。 イランは空爆されても壊れない施設を造っているといわれていますが、イスラエルもそれを破壊するための研究、兵器の開発を進めてきています。空爆だけで潰せない施設は、特殊部隊が侵入して内部から破壊する方法も想定されます」 ただし、今イランの核関連施設を破壊できたとしても、イスラエルには未来永劫の安心が約束されるわけではない。前出の菅原氏はこう言う。 「たとえ核開発の重要施設が破壊されても、イランは『今度は絶対にやられない施設を造ろう』と考えるでしょうし、仮に現体制が崩壊したとしても、結局は反イスラエル・反米の新体制ができるだけです。遅かれ早かれイランが決意を持って核武装するという方向に行くことは避けられないのではないでしょうか」 では一方、ハリス政権になった場合はどうか? 大統領選の段階では、バイデン政権よりもイスラエルに対してやや厳しい印象があるが、前出の渡瀬氏はこう言う。 「中東政策に関しては、ハリス政権は支持基盤の意見の整合性がとれずに、収拾がつかなくなる恐れがあります。まず、民主党はアメリカの同盟国であるサウジアラビアの人権問題を重視しており、関係が微妙になります。 一方で、結果的にはイランにいいように踊らされたオバマ政権時代の核合意の再開について、イランの新政権から秋波を送られている。こうしたもろもろのテーマについて、おそらく実効性のある対応がとれず、右往左往することになるのではないでしょうか」 そうなると当然、イスラエルに対する実質的な抑制も効きづらそうだが、前出の二見氏はこう言う。 「ハリス政権はイランから弱腰と見られる可能性が高く、そうなるとイスラエルは今後も何かあれば弾道ミサイル攻撃を受けることになります。これを受け、ハリス政権がイスラエルに対する兵器の供与を交渉材料として、エンドステートを停戦の形で設定するシナリオは予想できます」