古代ギリシャの「甲冑」は使えたのか? 海兵隊員が11時間模擬戦をした結果がすごかった
甲冑の長所と短所
ウォードル氏によると、後期青銅器時代に一般的に使用されていた甲冑は、リネンの生地に青銅製の鱗を貼り付けたものだったという。今回の研究により、デンドラの甲冑は、こうした従来型の甲冑よりも防御力に優れていたことが示された。その分、動きやすさは犠牲になったが、機動力が重視されるようになったのは後の時代のことだ。 デンドラの甲冑が戦闘用にデザインされたことを示す特徴の1つは、肩のパーツの内側に取り付けられた三角形のプレートだと、論文の共著者でテッサリア大学の応用生理学名誉教授であるヤニス・クテダキ氏は言う。これは、腕を挙げたときに脇の下を保護するためとしか考えられない。また、上腕部の延長パーツは、柔軟性を与えつつ接近戦の際に体を保護するためだと考えられる。 論文の筆頭著者であるフローリス氏は、デンドラの甲冑は相手との距離が2~20mの中距離戦闘で重要な利点をもたらしたと指摘する。「この距離では、甲冑はほとんどの危険から着用者を守ったはずです」 甲冑の欠点は重さだったが、それが武器と戦術の開発につながり、ミケーネの戦士たちに決定的な優位をもたらした。フローリス氏は、「指揮官たちは、作りの良い機能的な甲冑をフル装備で身につけていましたし、彼らは通常、戦闘経験の豊富なエリート戦士でした」と言う。しかし、部下たちの大半は甲冑をつけていないか軽いものしかつけておらず、彼らの任務は指揮官を接近戦から守ることだったという。 研究チームは「後期青銅器時代戦士モデル(Late Bronze Age Warrior Model)」というフリーソフトも制作した。このソフトは、彼らの研究で収集したデータを使って、戦闘時の気温、太陽の角度、戦闘の頻度など、さまざまな条件下での戦闘の結果を細かく予測できる。
戦場を大きく変えた甲冑
アイルランド、ユニバーシティー・カレッジ・ダブリンの考古学者のバリー・モロイ氏は、今回の研究には参加していないが、デンドラの甲冑が戦闘に適しているかどうかを評価した研究で知られる。 「デンドラの甲冑は、これまでに見つかっている先史時代のヨーロッパの甲冑の中で最も興味深いものの1つであり、武器と戦争の発展の長い歴史を理解する上で非常に重要なものです」とモロイ氏は言う。 デンドラの甲冑は当時の最先端の軍事技術であり、約100年後にヨーロッパの別の地域でその簡易版が登場している。「デンドラの甲冑は、戦場を一変させたのです」
文=Tom Metcalfe/訳=三枝小夜子