韓国で国論を二分する歴史教科書の国定化 何が背景なのか?
朴政権が目指す教科書の内容は?
所管の黄祐呂社会教育部長官は「国民を統合して、自由民主主義に基づく健全な国家観とバランスの取れた歴史認識を育む教科書を作る」と言明しています。具体的には「現行の歴史教科書が我が国の現代史を正義に反する歴史として否定的に描写している」(朴大統領)ことから検定制が一部導入された金大中政権(1998年2月-2003年2月)、完全に検定制に移行した盧武鉉政権(2003年2月-2008年2月)の革新政権下で否定された父親の時代(朴正煕政権1961年―1978年)を再評価する教科書を指すようです。父親の名誉回復のための娘としての「親孝行」なのかもしれません。 しかし、野党・新政治民主連合の文在寅代表は国定教科書が朴正煕政権時代の1974年から採用されてきたことから国定化への回帰は「朴正煕政権時代を含めた過去の独裁政権を美化しようとするものである」と断定し、「東アジアの歴史歪曲の主犯として批判される安倍晋三首相さえも実行できない最悪の選択をした」と批判しています。
他の国でも国定化の事例はある?
世界で国定制に基づいた教科書を採用している国はロシア、北朝鮮、ミャンマー、キューバ、リビア、タイ、マレーシア、バングラデシュ、それにイラン、トルコなど一部のイスラム国だけです。これらの国々の多くは盲目的愛国主義、ナショナリズムを高揚する手段として、あるいは政権の統治のための「洗脳の道具」として教科書を利用しています。 日本でも戦後の1948年に国定から検定制に移行しましたが、戦前「軍国少年」に育てられた反省として、国家が教科書を通じて国民の多様の考えを制御するのは正しくないとの社会的合意に基づき、教科書の国定化を止めたようです。 国連のファリダ・シャヒド特別調査官は国連総会(2013年)と国連人権委員会(2014年)に提出した報告書の中で各国に国定教科書、政治史中心叙述、国家アイデンティティ強化を目的とした歴史教育をしないよう勧告しています。韓国はどうやら歴史の流れに逆行している感じが否めません。
■辺真一(ぴょん・じんいる) 「コリアレポート」編集長。東京生まれ。明治学院大学(英文科)卒業後、新聞記者を経て、フリージャーナリストへ。 1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。 1986年 テレビ、ラジオで評論活動を開始。 1998年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー。 1999年 参議院朝鮮問題調査会の参考人。 2003年 海上保安庁政策アドバイザー。 2003年 沖縄大学客員教授