エアレース総合Vの室屋が凱旋帰国「未来は思い描くから現実になる」
しかし、室屋は続く第7戦のラウジッツ(ドイツ)で優勝して最終戦に望みをつなぐことになる。 しかも、このレースで室屋は、上位パイロットとのポイント差を縮めるために、あえてラウンドオブ14(一回戦)でのタイムを落として、ラウンドオブ8(準決勝)でトップ4の誰かとぶつかるような仕掛けをした。準決勝はタイム順で1位対14位、2位対13位というような組み合わせになるからだ。 「ペースを落とすとガタガタになるのでリスキーだが、ここで勝負するしかないと、あえて落とした」 うまくトップ4の一人、カービー・チャンブリスとの直接対決を実現させて脱落させたのだが、室屋が掻き回したことで、もうひとつラッキーな組み合わせが生まれた。ソンカが、4強の一人、ピート・マクロードと準決勝で対戦することになったのである。ファイナル4に残らねばポイントは増えない。ここでソンカが敗退すれば、逆転Vの可能性が出てくる。 ピートとは“2009年組”と呼ばれるライバルであって同期である。室屋は、レース前、冗談で「2位に入ってくれない? ソンカに入られると困るからさ」と声をかけた。すると冗談が本当になった。ピートが総合首位のソンカを破りファイナル4を室屋が制したことで、4ポイント差までつめ寄ることができたのである。 インディアナポリス(米国)での最終戦での奇跡の逆転総合Vの可能性が僅かに残った。室屋が優勝、首位のソンカが3位以下という条件でだけ総合Vを手にすることができることになったのだ。 決勝日。朝からインディアナポリスは雨だった。風もある。もし悪天候でレースが中止となれば、予選の成績で順位が決まるため、予選で失敗していた室屋の総合Vは消える。 だが、雨は徐々に上がり、1時間遅れでレースが行われることになった。 このサーキットで行われるビッグイベント、インディ500で今年5月に日本人として初優勝を果たした佐藤琢磨の激励もあった。「おっさんアスリートトークのできる貴重な仲間」(室屋)の訪問に刺激も受けた。 最初のラウンドオブ14で、室屋vsソンカが実現した。室屋の後から飛んだソンカは、パイロンと言われる障害物に接触して敗退、室屋の逆転Vの可能性が広がったが、タイム順で与えられる敗者復活枠で、ソンカが復活してきたため、ファイナル4で、2人は、再度、直接対決することになったのである。 一番最初にフライトした室屋は、コースレコードとなる1分3秒026という驚異的なタイムをたたき出す。コンピューターの仮想タイムでも出るはずのないタイムで、ソンカにプレッシャーをかけた。 「最後の最後、全力で目一杯のラインで飛んだ。最終ゲートでは、おあられ、ひっくりかえる寸前でパイロンヒット(障害物に接触)ぎりぎりの状態だった。4秒を切るとは、何がおきたのかなという感じだった」 優勝への確信を得るには、十分のタイムだったが、ソンカが2位以上をキープすれば、総合Vを持っていかれる。だが、ソンカは、4位に沈んだ。 神風が吹いた。 「最後の最後までひっぱるなんてね。疲れましたよ」