中国の金融政策運営・金融調節を巡る最近の動き
中国の金融政策運営・金融調節を巡り新たな動きが見られる。 潘功勝中国人民銀行総裁は、2024年6月に以下の点を明らかにした(陸家嘴論壇での基調講演)。 第一に、金融政策運営における中間目標について、数量指標の役割を徐々に小さくする一方、価格指標である金利による金融調節の役割により注意を払うとした。 中間目標をマネーサプライや社会資金調達規模といった数量指標から金利へ移行させるという従来からの流れが再確認された。背景には、経済構造の変化や金融革新等の影響から、数量指標とGDPとの関係がつかみ難くなったことがある。潘総裁も上記の講演で、M1について「金融市場やモバイル決済等の金融革新の急速な発展」を受けて、「マネーの機能(決済)の点から見て、個人当座預金や(略)直接支払い機能を有する一部の金融商品をM1の範囲(現行は現金+企業当座預金等)に含めることを考慮する必要がある」としている。1980年代の米国等と同様の状況であり、中国も金利コントロールを通じた金融調節に移行していくと見られる。 実際、7月には金融調節の方法について新たな動きがあった。人民銀行は、7月8日から状況に応じて臨時の翌日物のレポ(「正回購」、市中からの一時的資金吸収)、リバースレポ(「逆回購」、同じく資金注入)を営業日の16:00-16:20に実施すると発表した。翌日物のレポ、リバースレポの金利は、それぞれ7日物のリバースレポ金利を20bp下回る水準(1.6%)、50bp上回る水準(2.3%)である。 この公開市場操作は、固定金利で数量入札となっていることから、金利水準を重視していること、また、その基準が7日物のリバースレポ金利であることがわかる。これまで人民銀行は、毎営業日に公開市場操作がなされる7日物リバースレポ金利と毎月操作のMLF金利を「政策金利」としていたが、今後7日物のリバースレポ金利を重視する方向と見られる(なお、足元では「政策金利」である7日物リバースレポ金利とMLF金利がDR007やLPR、国債金利等の「市場の基準となる金利」に影響を与え、次にそれらが短期金利・貸出金利・債券金利等の「市場金利」に影響を与えるという金融政策の伝導メカニズムが形成されている)。 また、市場の短期金利の回廊(コリドー)も、従来は、常設貸出ファシリティ(Standing Lending Facility、SLF)金利を上限、超過準備預金金利を下限としたものであったが、臨時の翌日物のリバースレポ・レポ金利を上下限としたものになり、金利回廊の幅は、245bpから70bpに狭まる。 第二に、潘総裁は、「流通市場における国債の取引を金融政策の道具立てに徐々に含める」とした。潘総裁も指摘しているように、人民銀行から市中への(中長期)資金の注入は、以前、外貨準備が積み上がっていた時期は外為会計の払超によっていた。そして、外貨準備の増勢が鈍化してきた2010年代後半からは公開市場操作やMLF等のツールを通じてベースマネーを増やしてきた。こうした流れの中で、今後は市中との国債取引による資金の注入・吸収も活発化させるとのことであろう。 人民銀行は7月1日、公開市場業務のプライマリーディーラーから国債を借り入れると発表した。中長期国債金利が低くなっていることもあり、市場では人民銀行による国債売却に向けた動きととらえる向きもある。 神宮健(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニアチーフ研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【神宮健のFocus on 中国金融経済】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
神宮 健