「房総のマッターホルン」とも呼ばれる南房総・伊予ヶ岳で、スリル感を味わう山歩き
伊予ヶ岳は、房総の山では珍しく山頂部に鋭い岩峰を擁し、千葉県で唯一山名に「岳」がつく山だ。伊予という山名の由来は、愛媛の石鎚山に似ているからだともいわれている。荒々しい岩峰に立つと双耳峰の富(とみ)山がひときわ印象深く、眼下には箱庭のように里山が広がる。空気が澄み、遠くまで眺望が得られる秋から早春、ほがらかな陽気となる春あたりまでがベストシーズンだ。
JR内房線岩井駅から南房総市営バス「トミー」に乗車し、天神郷バス停で下車する。午前中2便しかないので、バスがないときにはタクシーを利用するとよい。また駐車場が整備されているので、マイカー利用も便利だ。 大鳥居をくぐって、平群(へぐり)天神社へ。平群天神社は南北朝時代に京都の北野天満宮を勧請(かんじょう)したものといわれ、広く信仰を集めている。また菅原道真公の一代記「平群天神縁起絵巻」が保管されていることでも知られる。 参道には樹齢1000年とも伝えられる御神木、夫婦クスの大木がある。「男木」と「女木」と呼ばれる2本のクスノキは、どちらも幹周り4m以上のみごとな大樹だ。
天神社の左にある道をたどり、伊予ヶ岳へ向かう。細い山道に入り、シイやクヌギの雑木林から杉林へとゆるやかな道が続く。1時間弱で分岐に到着。ここで富山方面への道を左に見送り、杉林の急登をジグザグに登っていく。やがて尾根の一角に出ると、あずまやとベンチが置かれた展望台だ。
ひと息入れて、展望台から岩まじりの急斜面をロープ伝いに慎重に登ると、10分ほどで伊予ヶ岳の南峰に着く。鎖で囲まれた露岩の南峰からは三六〇度の眺望が得られ、双耳峰の富山が箱庭のように見える。条件がよければ、丸い山容の津辺野(つべの)山越しに東京湾と富士山、塩見岳、白峰三山などの南アルプスのほか丹沢山地や箱根などがよく見える。
続いて、しっかりついた踏み跡をたどって標高336mの北峰へ。富山とその手前に里山が広がり、すばらしい眺めだ。 また北峰から見る南峰は切れ落ちて険しく、見ごたえのある特徴的な鋭い山容だ。 下山は南峰まで戻り、急な岩場を滑落に注意して下る。滑落事故が発生することもあるので、とくに下りの際は気をつけてほしい。富山方面への分岐を右に入り、雑木林を抜ける。振り返ると伊予ヶ岳の岩峰がひときわ美しい。さらに車道に出て少し歩き、天神郷へ戻る。