都心を低空飛行「羽田新ルート」安全対策で求められること
航空落下物の主な原因は整備不良
都心上空を低空で飛行することには航空機から落下物が生じるという懸念もある。日本でも過去に落下事故がしばしば起きている。成田空港に向かっていた全日空便の同じボーイング767型機から、脱出用シューター収納パネル(縦60センチ、横135センチ、重さ約3キロ)が2度脱落した事例がある(2017年9月7日と8日)。7日の脱落パネルについては20日後、茨城県稲敷市の工場敷地内で発見された。 2017年9月23日には、関西国際空港を離陸したKLMオランダ航空ボーング777型機から重さ約4キロのパネルが脱落し、大阪市内で真下を走行していた自動車に直撃したが、けが人はなく大事には至らなかった。 さらに2018年5月24日、熊本空港を離陸後のJALボーイング767型機の左側エンジンに異常が発生、エンジンから飛散した金属片が熊本県益城町の自動車や建物の窓ガラスを損傷した。空港周辺では98個の破片が回収された。 重大インシデントや安全上のトラブルをまとめた国交省のデータによれば、航空整備士が原因で飛行中にライトやパネル、アンテナなどが外れたとみられるトラブルが、2011年度の17件から2016年度には119件と、7倍に急増していた(2017年11月7日付け東京新聞)。航空整備士は、飛行前後に機体の一部分を、数か月に一回は機体全体を整備している。 航空機からの落下物は、飛行ルート直下の人や物に被害を与えるばかりか、航空機の墜落に結びついて重大な損害を社会に及ぼす可能性がある。2017~18年に旅客機からの部品などの落下事故が続いたことを受け、国交省内に「落下物防止等に係る総合対策推進会議」が立ち上げられ、「落下物防止対策基準の策定」などの対策強化が図られている。 格安航空会社(LCC)の増加で、世界的に航空機が飛躍的に増加し、また、整備の外注・下請け化が進んでいることなどから、整備士の不足や整備力のレベルダウンが指摘されてもいる。 航空機整備のAI化や、部品をセーフライフ(安全耐用時間)ごとに交換する信頼性管理の徹底、整備士の人材育成、待遇改善など、こうした問題への対応は喫緊の課題である。大都市の人口密集エリアを飛行する航空機の整備は、航空安全の大きな要(かなめ)であることを再認識したい。
----------------------------- ■藤石金彌(ふじいし・きんや) 航空ジャーナリスト。音の出る雑誌『月刊朝日ソノラマ』を経て、月刊『安全』『労働衛生』編集長。編集総括:『航空実用事典』(朝日新聞社)、著書『コクピットクライシス』『スカイクライシス』(主婦の友社)、『安全・快適エアラインはこれだ』(朝日新聞出版)、『航空管制「超」入門』(SBクリエイティブ)。元交通政策審議会航空分科会委員